大不況でこそ長期投資家のリターンは大きくなる
この記事を書いている2019年6月時点の市場は、今後1年以内にも景気後退局面に入るかともいわれており、ややピリピリとした空気が漂っています。
「世界中の株式市場で同時に株価が急落」などのニュースに頻繁にさらされる機会も頻度が多くなってきたわけですが、もっと耳触りの良い知らせを求めている方に、ちょっとした朗報があります。
ちょっと意外かもしれませんが、来るな来るなと恐れている株価を大きく下げる株の暴落こそが、長期投資家にとっては株価のリターンを大きくするチャンスだということです。
今日ここで考えていくのは、ダウ平均市場最大の下落率を記録した1929年世界大恐慌がもしも起こらなかったら株のリターンはどうなっていたのか、という壮大な仮定のお話です。ジェレミー・シーゲル博士の著書「株式投資の未来」で、紹介されている有名な研究結果を紹介します。
また、この研究結果は有名なので「それくらい知っているよ」という読者も多いかも知れません。
そんな玄人な読者向けにこの記事の最後に「このシーゲルの研究結果って次来る不況でも再現性あるのか」という考察も加えているので、こちらをクリックして記事の最章まで一気にお進みください。
1929年大恐慌がもしも起こらなかったとしたら・・・
このブログでも何度か振れていますが、1929年の世界大恐慌時はダウ市場最大の下落率を記録した歴史的一大イベントでした。
参考記事:米国株投資で押さえておきたい数字シリーズ2:不況時の最大下落率編
1929年当時のダウ最高値から3年間かけて89%も下落し、さらに1929年時の最高値まで株価が回復するのに25年もの月日がかかった大不況は、世界大恐慌を差し置いて他にありません。
もはや、惚れ惚れするくらいに圧倒的な大下落ですね。もしも画家に当時の惨劇の絵を書かせたら、絵から想像できるドラマが多すぎて後世に名を残す一品になりそうです。
さて、その世界大恐慌を経て株価が最高値に回復するまでの25年間を題材にして、シーゲル氏は次の2つの状況を仮定し、それぞれの投資リターンがどうなるか検証を行いました。
- (1)1929年当時の最高値でS&P500に1000ドル投資し、1954年の株価回復まで配当は全て再投資
- (2)1929年当時の最高値から株価が元に戻る1954年まで株価が横ばいで推移したと仮定し、1929年にS&P500に1000ドル投資、さらに配当は全て再投資した場合。
ポイントは(2)の仮定です。1929年から始まる大暴落もなく、配当の大幅減少どころか順調に増え続けた場合を想定しているケースになります。つまり「もしも恐慌が起きなかった場合の株のリターン」を検証しているのが、(2)のケースです。
さて、その2つのケースの株価のリターンがこちらです。
ケース | 1929年時点の資産額 | 1954年時点の資産額 |
---|---|---|
(1)恐慌ありのS&P500配当再投資時のリターン | $1,000 | $4,400 |
(2)恐慌なしのS&P500配当再投資時リターン | $1,000 | $2,720 |
注目はやはり、恐慌が有った場合の配当再投資戦略では資産額が4400ドルにもなるのに対して、恐慌が起こらなかったと仮定したときの配当再投資戦略の資産額が2720ドルと、60%程度の額にしかならないということです。
恐慌がある場合のほうがリターンが大きくなるという結果が出ましたが、なぜこのような結果になるのでしょうか。
大恐慌が株のリターンを大きくする理由
恐慌時のほうがリターンが大きくなる理由は、単純なカラクリがあります。一言で言うと、恐慌で株価が下がったタイミングで、より多くの株を配当で購入できるようになるので、株価が元通りの水準に回復する時に、安値で買った株の利益が大きくなるというものです。
- (A)1929年の世界大恐慌では、配当の減配率よりも株価の下落のほうが大きかったため、株価下落時に配当でより多くの株を買えた。
- (B)恐慌ありケース(1)のほうが、配当再投資でより多くの安い株を購入できていたため、元通りの株価に回復する過程で多くのリターンが生まれた
この研究結果は、長期投資家にはとても心強いですね。今後不況が来ても、安心して配当再投資を続ける勇気をくれます。
めでたし、めでたし♪
さて、ここまでの内容でも投資初心者向けには十分意味のある研究結果だと思うのですが、ここで記事を終わってしまうとシーゲル本や他の投資ブログで書いてある内容と全く同じになってしまうので、最後にもう考察加えてみたいと思います。
最後に考えてみるのは「この記事で紹介したシーゲルの研究結果は、次に来る不況でも再現性があるのか」という点です。
考察:シーゲルの研究結果は再現性があるのか
前の章で触れた、不況時が起こった場合のほうが株の投資リターンが大きくなる要因について、シンプルな表現にして再度おさらいしてみようと思います。
- (A)1929年世界大恐慌時、配当減配率よりも株価下落のほうが大きかった。(だから配当で多くの株を買えた)
- (B)(配当で安い株を多く買えた状態で)元通りの株価に回復した(結果、多くのリターンが生まれた)
この時点で洞察が鋭い方には、既にお気づきかもしれません。シーゲルの研究結果で肝になるのは、実は上記(A)の「不況時の配当減配率が株価下落よりも大きかったこと」で、これが結果に大きく影響しているんじゃないのか、と。
はい、私もそう思います。
次の不況を最後に、米国株の株価が二度と回復しないというストーリーはさすがに考えにくいので、(B)の「株価が元の水準に回復する」のは次の不況後でもちゃんと再現できる状況だと思います。
となると次の不況でもリターンが大きくなるためには、「(A)配当減配率よりも株価下落のほうが大きい」状況が再現してくれるかが肝になってくるのです。
しかし、ここで大きな問題が発生します。1929年は歴史に名を残す大暴落株の下落率89%で、株価下落率が配当減配率を上回る状況が簡単に生まれるのです。でも、こんな大きな下落率の不況がそうそう起こりません。
減配の具体例をいくつか拾ってみると、2019年2月のクラフト・ハインツの減配は36%、2019年5月のボーダフォンの減配は40%なので、こうした減配でも不況時のほうが有利なリターンを得るためには、40%以上の株価下落が必要です。100年に一度と言われたリーマンショックのダウ平均の下落率は最大で54%なので、リーマンショックに準じるような不況でないと達成不可能です。
また、2018年のGEのように経営不振を理由にした3度の配当減少を発表し合計92%を超えた銘柄もあり、保有銘柄でそのような減配が起こってしまった場合には、もはや株価下落が減配を上回ることは難しいです。
シーゲルの本を読むと、一見どんな不況でも不況がおこれば株リターンが大きくなるような印象を受けがちですが、「減配率を上回るような大幅下落の不況ならば」不況時にリターンが大きくなると理解したほうが正確だと思います。
私はシーゲルの投資本は、投資初心者向けにはとてもわかりやすくてためになることが書いてあるのでお勧めしていますが、米国株の長期投資の配当再投資はどんな投資にも勝ると思って読んでしまうと、見落とす視点がいくつもある本なので、中級者以上の投資家は注意して読む必要があると思っています。
参考記事:アメリカ株投資家がはまる「成長の罠」の罠