市場の動きに感じる違和感
この記事を書いている2019年夏のアメリカ市場を見ていると、何か違和感を感じます。
何が変かというと、株と債券が両方買われていることです。
通常は逆の動きをする株と債券
普通は株が買われるときは債券が売られ、債券が買われるときには株が売られるといった具合に、互いに正反対に動く現象が起こります。これは株と債券が異なる特徴を持っているためです。
リスク | リターン | |
---|---|---|
株 | 高い | 高い |
債券 | 低い | 低い |
投資家が投資に積極的な時(リスクオン時)には「守り」の姿勢でもった債券を売って、その分の資金でハイリターンが見込める株を買う「攻め」の姿勢を取ります。一方で、不景気が近づいている時(リスクオフ時)は投資家は消極的になり、「攻め」の株を売って、債券を買って「守り」に入ります。
なので通常は債券と株は逆の動きをすることが多くなるのですが、2019年6月以降は特に株も債券も買われる動きが強まっています。
買われ続ける株と債券
さて、通常の株と債券の動きを理解した上で、2019年に入ってからの株と債券の価格の変化を見てみましょう。
まずは株についてですが、この記事を書いている2019年7月3日に市場平均のS&P500は歴代最高値を記録しています。下は2019年年初から7月3日までのS&P500の値ですが、5月に失速があったものの綺麗な右肩上がりなグラフを描いています。
一方、債券も2019年にはいってから買われ続けています。以下は10年ものアメリカ国債の利回りを表したグラフを見てみると、綺麗な右肩下がりのグラフをしています。債券は買われるほどに利回りが低下するので、綺麗な右肩下がりは買われ続けていることを意味します。
株と債券両方とも買われている今の状況をどうみれば良いのでしょうか。株が買われているということは、「攻め」に入っているリスクオンの状態なのでしょうか。それとも、債券も買われているので「守り」のリスクオフの状態なのでしょうか。
いったい、今の市場は何が起こっているのかと不思議になります。
私も実際、ずっと不思議に思っていました。しかし、以下の記事を書きながら、徐々に何が起こっているのか見えてきた気がします。
株式投資家も債券投資家も、共にこれから不景気が来ると思っているのです。
共に不景気を予想する株式投資家と債券投資家
将来この記事を振り返る時のために、2019年7月の現在の市場をさらっとまとめるとこのようになります。
- 景気後退の前触れと呼ばれる逆イールド現象が発生。(参考:【解説】12年ぶり発生した景気後退シグナル、逆イールドとは何か。)
- 米中貿易協議により新規の追加関税は回避されたものの、発動中の第1〜3弾の関税が残り続けて経済を圧迫。(参考:貿易戦争の休戦後も残る関税。中国経済に影を落とす恐れ。)
- 景気後退不安から、市場の70%はFRBが2019年7月に利下げをすると予想。
こうした背景から、投資家は今後不況になることを見越していると考えると、債券を買う投資家の心理と、株を投資家の心理が以下のように整理できます。
- 債券を買う投資家:これから景気が悪くなる。だから、リスクの高い株を避けて低リスクな債券を買っておこう。
- 株式を買う投資家:これから景気が悪くなり、中央銀行FRBは景気下支えのための金融政策を打つはず。金融政策は株価を押し上げるから、今のうちに株を買っておこう。
つまり、両者ともこれから景気が悪くなると思っていることは同じなのですが、取れるリスクが行動の違いになって現れています。
債券を買う投資家は、いつ来てもおかしくない景気後退で損をしないように今から備えています。一方で、株を買う投資家は景気後退前に発動されるFRBの金融政策が、景気後退前の最後の稼ぎどころだと思って、リスクをとって株に投資をしているようにみえます。