バフェットも注目する経済的な濠
バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、Amazon株を買ってから初めての株式総会でのこと。若干9歳の女の子が「バークシャーがハイテク企業の価値を測り方を世の中に提案するべきではないか」と質問をしました。
その質問にバフェットはこう答えます。
「経済的な濠(ほり)が深い企業がいい。この原則は変わらない。」
あの投資の天才のウォーレンバフェットが、投資の原則と呼んだ経済的な濠とはいったい何でしょうか。この記事では、経済的な濠とは何か、どのような企業が経済的な濠が深いと言えるのかが分かるようになります。
また、経済的な濠をもつ企業は長期的に株価が上がりやすいことが知られていますが、経済的な濠が深い企業名も記事の中で紹介しますので、あわせてご覧ください。
記事のポイント
- 経済的な濠は、ライバル企業よりも優位に立てる強みのこと。例えば、高いブランド力がありライバルよりも高い価格で売れる、特許に守られた製品でライバルが同じものを販売できないなどがある。
- 経済的な濠を持つ企業は、ライバルよりも高い利益を長期間に渡って維持することができる。
- 利益が高ければ株価は上がる。長期間に高い利益を維持できる経済的な濠を持つ企業は、長期投資に向いている。
- モーニングスターによれば、5種類の経済的な濠がある。各タイプの経済的な濠を持つ企業名を紹介する。
経済的な濠とは何か
そもそも、「濠」って書くとわかりにくいですね。
「掘」とも書きますが、城の周りを取り囲んで敵の侵入を防ぐために作られた水路のことを言います。かつて江戸城だった皇居周辺には、白鳥が舞い降りたりする水辺がありますが、あれが濠です。
「経済的な濠」とは、企業がライバル企業からの類似商品の販売や新規参入や防いで、優位にビジネスができる「強み」のことを言います。
ようするに、他社が同じことをできないビジネス上の強みのことを言います。
世の中には、「アップルのiPhone」という名前がついているだけで、他社よりも倍も値段が高いスマホを買ったりします。他社は「アップル」を名乗ることも出来なければ、「iPhone」という商品名も使えないので、ブランドも他社が真似できない経済的な濠の1つです。
しかし、ここで1つ、疑問が生まれます。
「他社が同じことができないと、どうしてビジネス上の強みになるのでしょうか」
その答えは、とてもシンプルです。高い利益が維持できるからです。
他社が同じことをできなければ、高い利益を維持できる
一般的に、儲かる商売(利益が高いビジネス)にはビジネスチャンスがあるので、大量の企業が参入してきます。
でも、たくさんの企業が参入してくると、同じような製品で溢れかえります。すると、値引きしてライバルよりも販売数を伸ばしたり、広告宣伝して認知度を上げたりと、コストがどんどん膨らんで、せっかく儲かると思って始めた商売も、利益が減少してしまいます。
他社と同じ商品が作れたり、簡単に他社の真似ができる商売はあっという間に利益が下がる傾向があるのです。
でも、もしも真似できないような商売(経済的な濠があるビジネス)ができれば、高い利益をずっと維持できることになります。先程のiPhoneの例では、一度築き上げたiPhoneブランドがあるおかげで、他社よりも高い値段でスマホが売れるようになります。
そして、iPhoneブランドは他社が使うことができません。ブランドという経済的な濠のおかげで、高い利益を長年維持できる仕組みが出来上がっています。
経済的な濠がある企業は株価が上がりやすい
そして高い利益率を維持できる企業は、株価も長期的に上がりやすい傾向があります。株価は一株あたりの利益に比例して増えるからです。
なので、長期投資家は経済的な濠がある企業を選べば、株で資産を長期的に増やすことができるようになります。
これがバフェットがいう「経済的な濠がある企業を買う」という投資の原則です。
経済的な濠の種類は5つ
経済的な濠を持つ企業は他の企業に負けず長い間に渡って利益を出し続けることができます。
長期投資家としては、どのような特徴を持つ企業が経済的な濠を持つと言えるのか、知っておきたいところです。
どういう状態にある企業が「経済的な濠」がある企業と言えるか、モーニングスターは5つの種類に分類して整理しています。
Economic Moat (モーニングスター公式サイトより)
- ブランドなどの無形資産がある
- ネットワーク効果がある
- コスト優位性がある
- 乗り換えコストがある
- 市場規模が小さい
ブランドなどの無形資産がある
無形資産というと分かりにくいですが、「高い値段をつけても売れる強いブランド」、「特許」、「ライセンスや資格」があることを言います。
先程からiPhoneの例を出していますが、もう一つ有名な例は宝石のティファニーです。
ティファニーはエメラルドグリーン色をブランドカラーとして持っていて、ティファニーブルーと名付けています。ティファニーブルーの箱に指輪を入れて売るだけで、他社の倍以上の価格で売ることができるブランド戦略をとっています。
ティファニーは私も4-5年持っていた株だったのですが、ルイヴィトンのLVMHに買収されることが決まり、個別株で買えなくなってしまったのは残念です。
また、良くも悪くも例に上がりやすいのは、製薬会社です。薬は販売後数年は、特許によって他の企業が同じ製品を作れないので、他の企業の模造品を防いでビジネスができ、この間は高い利益率を出すことができます。しかし、その特許が切れるとジェネリック医薬品が発売され、その効力を失ってしまう点は注意です。
このように特許などのように国から保護もらえたり、携帯電波の周波数のように国からライセンス・資格を与えられる場合には、新規企業が簡単に参入できない状態が生まれるため、経済的な濠が生まれます。
無形資産の代表的な企業をリストアップします。
- アップル(iPhoneやMacという名前だけで、高く売れる)
- ディズニー(ディズニーという名前だけで、高く売れる)
- ティファニー(創業1837年を支える高いブランド力。ティファニーブルー)
- 製薬会社(薬の特許でビジネスが守られている)
- タバコ業界(規制厳しい上に訴訟が多い業界で、新規参入企業する企業が少ない)
- AT&Tやベライゾンなどの通信業者(周波数ライセンスでビジネスが守られている)
ネットワーク効果がある
「ネットワークへ効果がある」とは、より多くの人々がサービスを利用するにつれて、企業やサービスの価値が高まる状態のことを言います。
例えば、Lineをインストールするのは友達の多くがLineを使っているからです。Instagramをやるのもオシャレなユーザが数多くいるからで、もしもユーザ数が多くなかったLineもInstagramもやらないはずです。
ネットワーク効果は一度発生すると、別の企業が同じようなアプリを提供しようとしても、ユーザを既存企業から奪うことができず競争しても勝てない状況が生まれます。
こうしたネットワーク効果はSNS企業だけにとどまりません。
クレジットカードのビザカードはマスターカードは、世界中で最もユーザが多いクレジットカードとして有名ですが、あるお店のオーナーがクレジットカード決済に対応しようとした時「多くのユーザがいるビザとマスターカードに対応したい」と思うのは、ネットワーク効果のおかげです。
Amazonのショッピングサイトには、出店者が出品して商品を売るマーケットプレイスもありますが、出品者が多くなるほどユーザにとって、Amazonは何でも揃うショッピングサイトとしての価値が高まります。
ネットワーク効果をもつ代表的な企業・サービスは以下の通りです。
- Facebook (Facebook、Instagram、WhatsAppはみんな使っているから使う)
- Amazon (出店者・商品数が多いから使うショッピングサイト)
- eBay (同上)
- Visa (使えるお店が多いから持っているクレジットカード)
- mastercard (ビザの次につかえるお店が多いカード)
- Google (みんながGoogle検索を使うから、企業はデジタル広告をGoogleに出稿する)
- PayPal (決済アプリvenmoは米国で人気)
- Square (決済アプリSquareCashも米国で人気)
- Microsoft (みんな使っているOfficeソフト)
- Adobe (デザイナーがよく使っているデザイン専用ソフト)
- Uber (みんな使っているタクシー配車アプリ)
- Lyft (Uberの次に使われているタクシー配車アプリ)
コスト優位性がある
大量に仕入れて原材料費をこさえることができる大企業など、構造的にコストを抑えることができる企業も、経済的な濠がある状態です。
マクドナルド、ウォールマートは大量に原料や商品を仕入れることで、他の企業よりも安価なコストを実現していますし、アップルのiPhoneは機種の数を絞って大量に台湾のフォックスコンに生産を受注することで、圧倒的にコストを抑えてiPhone高い利益率を実現しています。
- マクドナルドなど大手レストラン
- ウォールマートなど大手流通企業
- アップル(単一商品で莫大な生産量を誇る大手メーカー)
この手の経済的濠は、基本的に大企業が享受することが多いです。
個人的な見解ですが、ダウ平均が長年リターンを出し続けている原動力は、コスト優位性があることが主な要因だとも思っています。ダウ平均採用銘柄は、業界の最大手の企業が選択される傾向があるからです。
乗り換えコストがかかる
製品の使用を中止するのが高すぎるか面倒な場合は、ユーザが簡単に他社の製品に乗り換えることができないため、経済的な濠が生まれます。
例えば、クラウド上に大規模なシステムを構築した場合に、そのシステムを別のクラウドに移すのは手間がかかります。
また、一番身近でわかりやすい例は、日本の携帯電話会社かもしれません。「2年縛り」が乗り換えコストです。悪質なくらい明確で意図的な乗り換えコストを発生させて、ユーザが他の企業に乗り換えるのを防いでいます。
- Amazon(クラウドコンピュータサービス、プライム会員)
- Microsoft(クラウドコンピュータサービス)
市場規模が小さい
他の企業がわざわざ攻めこんでも元が取れないほど業界規模が小さい場合も、経済的な堀がある状態です。
日本では、マンホール業界の日之出水道機器が国内シェア6割を占めているそうですが、市場規模がさほど大きいため、大企業はわざわざ不慣れなマンホール業界に新規参入しても大した売上にならないと言って、参入しない構造ができあがっています。
規模の小さい企業が多いので、こうした企業を探し出すのは少し大変ですが、見つけられれば掘り出し物銘柄になるでしょう。
まとめ
バフェットも原則として考えている経済的な濠について、解説しました。
経済的な濠とは、他社が真似できない強みのことを言います。経済的な濠を持っている企業は、高い利益を維持することができるので、長期的に株価が上がりやすい傾向があります。
この記事では、モーニングスターが分類した5つの経済的な濠について解説し、それに該当する企業や商品をあげていきました。実際に、どういう企業が経済的な濠を持っているのか、更に詳しく知りたいという人は「千年投資の公理」という本をおすすめします。
おそらく、世の中に出回っている本の中で、千年投資の公理以上に経済的な濠を詳しく解説している本はないと思います。経済的な濠は、私も個別株に投資をする上で、最も重要だと思っているので、何度も繰り返し読んでいます。
この記事では、経済的な濠のタイプにあう企業や製品も紹介しましたが、さらに研究して自分の目で深い経済的な濠をもつ企業を見つけてみて下さい。