日本では、2020年の東京オリンピックで海外観光客の利便性&インバウンド消費額向上のために経済産業省が旗振り役になって、QRコード決済の普及に邁進しています。今の日本は、海外に比べて遅れを取っているキャッシュレス化を進めて遅れを取り返そうとしているわけです。
しかし一方で、海外に目を移すと、決済事業で世界1、2位を争うビザとマスターカードが、日本のQR決済市場には目もくれず、それよりも桁違いに大きい国際送金市場を狙おうと、ある英国企業の買収合戦をしています。
その会社の名前はアースポート。クラウドを活用したシステムとネットワークを使い、主に銀行などのクライアントを相手に、安価で速い国際送金・決済サービスを提供する会社です。2014年には仮想通貨の1つであるリップルを手がけるリップル社と提携して、2016年には小規模金融機関向けの仮想通貨の技術を使った安価で高速な国際決済サービスも公開しています。
そして、そのアースポートの国際送金サービスを手に入れるため、ビザとマスターカードが競って買収提案をしているのです。
マスターカードとビザのアースポートを巡る買収合戦
まず、先手を打ったのはビザでした。当時のアースポートの時価総額約4倍に相当する1億9800万ポンド(約2.5億ドル、約270億円)で、ビザが買収する意向だとの報道が出ました。しかし、その1ヶ月後のマスターカードはビザを10%上回る金額でアースポートの買収に名乗りをあげています。
ビザによると、国際間決済の決済件数は2018年度で10%伸びを見せたと決済報告で述べており、成長分野だとしています。また、コンサルティング会社のアクセンチュアの調査では、国をまたがる国際間決済の金額は2022年に30兆ドル(3300兆円)を超えるとも予想されている巨大な市場です。
買収を企てるビザ・マスターカードには、今後ますます増えていく国際送金・決済の市場で優位に立ちたい狙いがあります。
アースポートが解決する国際送金・決済のムダ
巨大の市場ではあるものの現在の国際送金のほとんどがSWIFT(国際銀行間通信協会,スウィフト)という世界的な決済機構のシステムを介して行われています。そして、ご存知の通り国際送金は処理に何日もかかる上に、手数料が高いなどの課題を多く抱えています。
SWIFTが高くて、時間がかかる仕組みは以下のように目的の金融機関に送金するまでに、何箇所も中継地点を経なければならないからです。これにより余計に時間と手間がかかってしまいます。
そこで、アースポートはこの送金経路を以下のようにシンプルにする仕組み(システム)を作りました。これにより、送金したい国の銀行までダイレクトにつなぐことができ、時間も手数料も大幅に削減することに成功しています。
小規模ながら、大手金融機関をクライアントに持つアースポート
従業員は200人程度しかいないものの、相手にしているクライアントは大手が多いです。クライアントにはバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ、フランスの金融大手BNPパリバ、ゆうちょなどの大手金融機関が顔を連ねます。
例えば、ゆうちょはアースサポートの決済ネットワークを使うことによって、アメリカ、イギリスをはじめ30を超える国と地域の銀行口座あての国際送金の仲介手数料等が無料になるサービス行っています。
決済企業の次の主戦場は、国際送金・決済
さて話をビザとマスターカードに戻すと、両社がアースポートに買収提案を相次いで行っているのは、決済事業車にとって、「次の時代の主戦場が国際送金・決済になるから」に他なりません。
また、仮想通貨は通貨としての価値のブームは2018年に去りましたが、それでも仮想通貨を支えるブロックチェーンの技術が進化し続けている背景には、その技術に国際送金を劇的に高速・安価に変えうる可能性があり、国際送金の巨大の市場が狙えるからです。
そして、ビザのアルフレッド・ケリーCEOは2018年でメディアへの取材に対しては「短・中期的には仮想通貨は驚異とは感じていない」と言いつつも、「世の中の流れが(仮想通貨の方に)向かうなら、我々も軌道修正する」と発言しています。
また、マスターカードのアジェイ・バンガCEOは「仮想通貨はジャンクだ」としながらも、2018年10月には複数のブロックチェーンを1つのブロックチェーンに束ねる特許を申請するなど、何かを準備している様子が伺えます。
今回、買収される予定のアースポートは、20年来続けている国際送金サービスが魅力であることに加えて、小規模ながら仮想通貨技術を使った国際送金サービスを提供していることも、買収金額を上げている1つの要素かもしれません。
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