7月の物価の伸びが予想より抑えられていたことなど、最近の米国株には比較的明るいニュースが続いています。
こうした影響で株式市場の投資家も前向きになっているのを感じます。私も以前に比べると少し米国株に対して、短期的には悲観が弱まりました。
ただ、楽観的になるまでにはいたっていません。株価の上昇に乗り遅れたとしても、まだ安堵して警戒を解くには時期が早いと思っています。
この記事では米国株に楽観的になれる要素と、それでもまだつい悲観的に身構えてしまう要素について書いていきます。
この記事のポイント
- 米国株に強気になれる要素はインフレ圧力の低下。過去の米国株はインフレのピークが、株価の底値だった。
- 米国株に悲観的な要素は今後もしばらく続く金融引き締めと、S&P500の利益を支えていた石油業界株の今度の失速。
株価に強気になる要素
まず、米国株に強気になる材料について見ていきます。
一番大きな要因としては、最近のアメリカのインフレ圧力の低下だと思います。
>>生産者物価を見ても、アメリカはインフレのピークを付けたかも知れない。
2022年前半までは「(1)インフレが伸びる。(2)インフレを抑えるために政策金利が引き上げられる。(3)金利上昇の悪影響で株価が下がる」という流れがあったのですが、もしもアメリカの消費者物価の伸びが鈍化し始めたとなれば、この流れが変わる可能性があります。
過去にアメリカで高い物価の上昇が起こったときには、消費者物価指数の伸びが鈍化したタイミングで株価の上昇が起こっていました。
なので、既にアメリカの消費者物価がピークをつけたのなら、過去のアメリカのように株価が底を打った可能性があるという考えが浮かびます。
株価に強気になる要素
確かにインフレ圧力が弱まったのは良いニュースだと思います。しかし、私は次の理由でまだ米国株に楽観的な見方はしていません。
- (1)急な金融引き締めの悪影響は、これから経済に現れる。
- (2)1970年代の教訓があるので、今後アメリカで景気が悪化してもFRBは簡単に利下げに転じない。
- (3)原油価格が低下すれば、S&P500の一株利益も低下する。いずれどこかの時点で、S&P500は株価下落を起こす。
アメリカでは2022年に金融引き締めが本格的に始まりましたが、この悪影響はこれから経済に現れると思っています。
金利引き上げで景気を冷えるまでには時間がかかります。その上、今後もまだしばらく利上げが続いたり、9月に量的引き締めが増額されることをされたりすることを考えると、金融引き締めでGDP成長率が低下していく展開はまだ続くと思っています
(※現段階では7-9月期のアメリカのGDP成長率は再びプラス圏内に戻ると言われていますが、その先も安定してプラス圏内を維持できるかは疑問が残ります)。
以下の図を見るとわかるように、GDPの低下が続いている間は株価は底打ちしない(上昇に転じない)データがあるので、中長期的にはまだ米国株が下がる余地があると思っています。
そして、金融引き締めで景気が悪くなっても、アメリカには簡単に利下げをできない事情があります。
1970年前半にアメリカが高いインフレ率に苦しんだ頃、金融引き締めで景気の悪化が起こって早々に利下げに転じた結果、インフレの長期化を招いたことがありました。
この頃の反省があるので、2022年や2023年にアメリカが景気悪化したとしても、インフレが安定して下がるまでは簡単に利下げできなくなっています。
>>バーキン総裁、利上げ「継続していくしかない」 -70年代の反省で(ブルームバーグ)
なので、利下げで米国株が上昇するというストーリーが訪れるのはまだ先の未来だと思っています。
最後に気がかりな点は、S&P500の一株利益の減少です。
2022年4-6月期は石油業界を除くと、S&P500の一株利益は前年比マイナス成長に落ち込んでいました。
金融引き締めが続いて他の業界の業績がさえない中、今のように原油価格の低下が続けば石油業界の利益も伸びが止まってしまうかも知れません。それはS&P500全体の株価低迷に繋がりかねません。
まとめると、インフレ圧力が収まってきた兆候が見られて米国株は短期的には良い兆しが見られていますが、まだ嵐が去ったわけではなく、米国株はまだリスキーな状態が続いていると思っています。