昨日、10月のアメリカの小売の売上高が発表されました。
個人の消費の強さを見るには月末に発表される10月のアメリカの個人消費のほうが正確なのですが、小売売上高のほうが先に発表されるので、小売売上高はアメリカの消費の良し悪しを早く判断したい多くの投資家に見られています。
今月の小売高は予想以上に良かったので、アメリカの景気に楽観的な見方も広がっている気がします。
ただ、インフレも考慮した場合にはそれほど強くもないなというのが、個人的な感想です。今のアメリカの小売は好調ですが、それもそれほど長続きしない理由もこの記事で書いていきます。
この記事のポイント
- 10月の小売売上高は予想を上回って、好調だった。前月比では、給付金の効果で消費が加速した2021年3月以来の伸びを見せた。
- しかし、物価(インフレ)の変動を差し引いた場合、10月の小売売上高は特別に強かったわけではない。
- 2021年のアメリカは賃金よりも物価のほうが上昇している。このままでは貯蓄が少なくなったときに、消費が下火になる。
好調だった10月のアメリカの小売売上高
10月の小売高ですが、予想されていたよりもずっと良い内容でした。
- 予想:前月比+1.4%
- 結果:前月比+1.7%
- 前回:前月比+0.7%から+0.8%に改定
見慣れていないと前月比+1.7%という数字は、どれほど好調なのかイマイチわかりませんが、現金給付の効果がほぼ切れた2021年4月以降では一番良い数字でした。
インフレの影響を考えると見える景色は少し変わる
今回の小売売上を見て、アメリカの景気はまだ強いという意見も強まっています。
米小売売上高は10月に増加し、3カ月連続のプラスとなった。数十年ぶりのインフレ高進となる中でも、堅調な個人消費が続いていることが示された。(ブルームバーグ)
上はブルームバーグにあった一文ですが、以下のロイターでも、高いインフレの中でも個人消費は好調と伝えています。
供給の制約が続く中、年末商戦が早めに始まったことで押し上げられたとみられ、インフレ高進が消費支出を抑制していない可能性を示唆した。(ロイター)
ただし、今までは見てきた小売売上高の数字はインフレの影響を考慮していないことに注意しなければなりません。
つまり、10月の売上高が好調なのは確かですが、そもそもインフレでモノの値段が上がっているから売上高が伸びているのか、それともモノ値段の上昇以上に消費が活発になっているのかがわかりません。
それを調べるためには、インフレの影響を差し引いて、どれだけ小売売上高が伸びているかを見る必要があります。
インフレの影響を差し引いた小売売上高の伸びがこちらです。
こうしてみると10月の小売売上は9月よりもたしかに好調でしたが、8月ほどではないことがわかります。
またインフレ調整後の10月の小売売上の伸びは前月比+0.7%で好調ではありますが、この程度の伸びならコロナ前でもよく見られていたものなので、特別すごい伸びではなさそうです。
堅調な個人消費が続いていることは確かですが、どれほどインフレを上回っているかという視点でみると、10月のアメリカの小売は「よくある好調な月」という位置づけになりそうです。
これからのアメリカの小売売上について
私の予想では、これからアメリカの小売売上の伸びはどこかで鈍化すると思っています。
その理由は、最近のアメリカは賃金の伸び以上にインフレが進んでいるので、このままいけば上昇するモノの値段についていけなくなる恐れがあるからです。
上の図は2021年のアメリカの物価と賃金の伸びをグラフにしたものですが、残念ながら賃金の伸びは物価に追いついていません。
このままでは賃金は上がっているのに、それ以上にモノの価格があがるので、生活がまったく豊かになりません。
今はまだインフレを上回って小売の消費も続いていますが、おそらく貯蓄をけずって消費をしているので、インフレが収まらないと人々はしだいに消費を控えるようになるだろうと思っています。