先日、イギリス中央銀行が一時的に金融緩和に踏み切ったという話をしました。
>>期限付きの金融緩和に踏み出したイングランド銀行(22年9月29日記事)
イギリスの新政権が大型の経済対策を発表して以降、イギリス国債の価格下落(利回り上昇)が急速に進んでしまったところ、イングランド銀行は10月14日までの期限付きで国債を買い支えるという行動に移りました。
この件で少し進展があったので、続報を書きたいと思います。
この記事のポイント
- イギリス政府は経済対策の一つの富裕層への最高税率の引き下げ案を撤廃した。
- 各国の政府は簡単には経済対策が打ち出せない状況にあることを学んだ。今、世界的な景気悪化が起これば長引く恐れがある。
- 国債が急に売られれば、中央銀行は一時的に買い支える選択肢も生まれた。2022年は国債が売られたが、そろそろ下げ止まるかもしれない。
富裕層向け減税案の撤廃
既にニュースなどで知っている人も多いかもしれませんが、イギリスの新政権は英国債が売られるきっかけの一つになっていた大型減税の一部の案を撤回することになったようです。
>>英政府、最高所得税率の引き下げ案を撤回-財務相が声明発表(ブルームバーグ)
この展開は、多くの投資家にとっても概ね予想通りだったと思います。
イングランド銀行が売られすぎている英国債を買い支える発表をした際に、国債購入は10月14日までという期限をわざわざ設けたことから、このブログでもイングランド銀行は「時間稼ぎ」をしているのではないかという話をしました。
イングランド銀行が国債を一時的に買い支えている間、インフレで苦しんでる時期での大型経済対策(さらなるインフレを招きかねないお金のばらまき)を政府が考え直す時間が生まれ、今回のように一部の政策が撤回されるにいたったように思います。
もしも、イギリス政府が10月14日までに政策を修正させなければ再び国債が売られる恐れもあったのですが、その可能性は低くなりました。
今回の件による影響
今回の件は各国の政府や中央銀行に次のような爪痕を残した気がします。
- (1)景気が悪くても、今の時期は簡単に経済対策を打ち出せなくなった。
- (2)もしも国債が急に売られた場合には、中央銀行が一時的に買う選択肢が知れ渡った。
世界の景気悪化は長引くかも知れない
まず、世界的にインフレが進んでいる中で大型の経済対策をすると何が起こるかを示しました【上記の(1)】。
今回のイギリスの例では、大規模な国債が発行やインフレを懸念した投資家が国債と通貨を大きく売りました。各国の政府はイギリスの様子を見ながら、景気が悪いからと言って簡単には経済対策を打ち出せなくなったと感じているはずです。
新型コロナが流行した時のように大きな経済対策を打ち出して不況を短く終わらせることはできなり、今景気後退が起これば不況が長引く恐れが出てきました。
世界の景気悪化は長引くかも知れない
また、あまりに大きく国債が売られた場合に中央銀行が国債を一時的に買い支えるという選択が広く知れ渡ったように思います【上記の(2)】。
今回の件では、イングランド銀行が金融緩和を発表してから国債の大きな売りは止まり、市場は安定したように見えます。
2022年はインフレや金融引き締めを背景に、どこの国を見ても国債は売り一辺倒だったのですが、その勢いはそろそろ衰えるかも知れません。
JPモルガンはそろそろ国債が魅力的な投資先になってきたと言っています。
>>今が国債の買い時との見方広がる、過去数十年で最悪の債券売り受け(ブルームバーグ)
ご存知の通り、今のFRBは量的引締めで国債を処分していて米国債は売られやすい時期になっているので、今の段階で長期国債を買うのはリスキーな選択ではあります。
ただ、1980年代の高インフレになった時期でも景気が悪化すればさすがに国債は買われたことを考えると、長期国債が買われる時期はいずれ来るのだろうと思います。
私は国債買いより米国株売りのほうが堅いと思っているのですが、難易度は高いものの国債買いも選択肢に入れておきたいと思います。