米中の貿易戦争の過熱は昨晩わずかにトーンダウンしました。8月から過熱の一途をだどっていた状況から、両国を歩み寄りを見せる展開に市場も一旦は落ち着きを取り戻しています。
歩み寄りを見せ始めた米中貿易戦争。中国の為替管理とトランプ大統領の会談希望の声。
しかし、今のトランプ政権は中国とだけ戦っているわけでありません。中国との貿易を戦争の過熱をちらつかせつつ、アメリカの中央銀行のFRBに対して景気刺激のためのさらなる追加利下げを要求しています。
まったく、忙しい人達ですね。ただ、その生産性の高さには頭が下がります。
トランプ政権は中国とFRBとの両面に対して駆け引きをしているわけですが、8月6日トランプ政権の側近のナバーロ大統領補佐官が、「2019年内に少なくとも0.75-1.00%の利下げが必要だ」と発言してFRBに対して口火を切りました。
これがどれだけの規模かと言われると表現が難しいです。FRBは次回9月会合での利下げも明言していないのに、市場は年内に3回の会合であと2回の0.50%の利下げを予想しています。そして、ナバーロ氏はその市場の期待をも上回る要求をしているというのが今の状況です。
例えるなら、こんな感じでしょうか。
- FRB「次の打席でヒットを打つかどうかわからない」
- 市場「FRBなら残り3打席のうち、2本はヒットを打てる」
- ナバーロ「FRBなら3打席全打席でヒット、なんならホームランもあり得る」
変な例で逆にわかりにくくなりましたが、政策金利を巡ってFRBの考えとトランプ政権の希望には大きな乖離があるのが、今の状況です。
ナバーロ氏、FRBに年内0.75-1.00%の利下げを要求
トランプ政権の大統領補佐官で貿易アドバイザーのナバーロ氏は6日、他国の金利水準に合わせるために年内に0.75%-1.00%の利下げをする必要があるとFOXニュースで発言しました。
ただ、ナバーロ氏は米中貿易戦争の停戦を破ることになる9月1日の米国関税を唯一支持したトランプ大統領のアドバイザーで、タカ派で知られる人物です。
アドバイザーの反対を押し切ったトランプ大統領。関税引き上げツイートの舞台裏。
また、現在の高いアメリカの政策金利が米国の雇用に影響しているとナバーロは言っていますが、直近の雇用統計では好調だった2018年に比べればやや減速が見えるもののアメリカの失業率の3.7%は歴史的な水準です。
FRBに対して、過度に要求を突きつけている可能性が高いです。
とても緩やかな景気の減速が垣間見えた2019年7月米雇用統計。
利下げに慎重な姿勢を崩さないFRB
一方、FBRは利下げに対してはかなり慎重に見ているようです。
ナバーロ氏が発言をした同じ日、FRBのジェームズ・ブラード米セントルイス地区連銀総裁は、経済は引き続き成長しており、一気に大幅な追加利下げをする必要はないとの考えを示しています。
「2007年の金融危機当時と比較した場合、一時に0.5%ポイントもの大幅な利下げを行うような状況ではない」と話をしてます。
FRB、利下げ「積み上げる」必要ない=セントルイス連銀総裁(ロイター)
ブラード総裁は、まだFRBが利下げをしていない2019年6月段階で、いち早く利下げの必要性を発言した人物でもあります。そのブラード総裁は大幅な利下げは必要ないと発言した意味は大きいです。
また、7月のFRBの利下げ決定に反対票を投じたボストン連銀総裁は、今後の大幅な利下げどころか、そもそも追加利下げの必要もないとのスタンスを取っています。
米追加利下げ、「明確で説得力のある」論拠ない=ボストン連銀総裁(ロイター)
次回は政策金利の決定会合は9月18日ですが、それまでには1ヶ月以上もの時間があります。FRBは、今後1ヶ月の間に上がってくる米国の主要な経済指標に、景気減速が見えるかどうかを吟味する日々が続くと思われます。