最近のブルームバーグやら、CNBCを見ていると経済の専門家が米経済の今後をあれやこれやと解説する場面によく出くわします。その中でも、違いが際立っていて面白いなと思うのは米大手投資銀行の見解が三者三様になっていることです。
よく話に登場するのは、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、JPモルガンです。3社とも市場が2019年内に複数回の米政策金利の利下げを期待していることを十分に知りつつ、「ひょっとするとこんな展開もあるよ」という独自目線のストーリーを公言しています。そのストーリーに違いが際立っています。
モルガンスタンレー:貿易戦争なくても米経済は景気後退へ
なぜか、私が一番目にするのはモルガン・スタンレーの人へのインタービューなのですが、この会社の人たちは昨今の米経済にかなりネガティブな見解を持っています。
基本スタンスとして、「そもそも米経済は米中貿易戦争が加熱する前から景気の曲がり角に直面していた」というストーリーを信じています。「雇用データ」「インフレ率」などあらゆる経済指標が、米中貿易が加熱する2019年5月前から悪化しているのがその根拠です。
よってモルガンスタンレーにとって、米中貿易は米国の経済の減速を加速させる1つの要因という見方をしています。
参考記事:【原因と結果】米中貿易戦争終結でも米国はリセッション入りするのか。
また、2020年にはリセッションは入りする可能性があると見るなど、アメリカ経済に相当悲観的です。
参考記事:2020年3月にリセッション入りの可能性(モルガン・スタンレー調べ)
さらには、FRB米国の金利を2019年夏に早々に引き下げたとしても、米国経済は景気後退や不況を回避できない深刻な状況になっている恐れがあるという、もっとも悲観的な筋書きも描いています。
参考記事:モルガンスタンレー、19年夏の利下げ実施でも景気後退は不可避か。
ゴールドマン・サックス:市場は利下げを折り込みすぎ、FRBが利下げしない展開もあるかも
一方、ゴールドマン・サックスの見方は、モルガン・スタンレーとも市場の見方とも異なります。
ゴールドマン・サックスのチーフエコノミストJan Hatzius氏は、「FRBは景気の下方リスクに注意して、適切に判断する」というパウエル議長の発言が政策金利の引き下げを意味しているわけではないという、市場の見方とは異なる解釈を6月10日にメディアで話しています。
Goldman Sachs says the Fed won’t cut rates this year(CNBCより)
パウエル議長の発言は利下げを示唆しているのではなく、FRBが貿易戦争のリスクを十分に認識していることの安心感を市場に与えるものだったとして、2019年内では政策金利の変更が無いことを期待していると発言しています。
よって、今の市場はFRBの利下げ期待をしすぎ、株が買われすぎの状態だと見ているようです。
JPモルガン:貿易戦争加熱する前に、大統領が合意を宣言して株価高騰へ
さて、今日最後はJPモルガンです。JPモルガンの主張は、モルガン・スタンレーともゴールドマン・サックスとも違います。箇条書きでまとめると以下のような主張です。
- 2019年に貿易戦争から景気後退がおこった場合、それは「トランプ不況」と呼ばれる。
- 2020年に大統領選を控えているトランプにとって「トランプ不況」は避けたい事態。
- よって、米中貿易戦争は激化する前に協議が合意に至る
- これにより市場全体で5%の急上昇、特に米中貿易で株価が低迷した銘柄は10-20%の株価上昇が起こる。
なるほど、論理としては理解できます。そして際立つのは、モルガン・スタンレーとの見解の差です。明暗はっきりと別れています。
どのストーリーを信じるか
ここまで、色んなストーリーを聞くと今後一体どういう展開になるのか、わからなくなりなりそうです。消化しきれない情報量と、判断材料の不足で、今後の展開が非常に読みづらいですね。
私は、投資を始めてから次が2回目の不況で、このような局面の経験値が低いため、安全側に倒してモルガンスタンレーに近い見方をしています。最近の記事でモルガン・スタンレーの引用が多いのも、そのためです。
JPモルガンの楽観的な見方も論理としてはおかしくないですが、この主張を信じて今積極的に書いに走れるほど、景況を見分ける判断の目が自分に備わっている気はしないです。これでJPモルガンのストーリーが正解だったとしたら、反省会を開きたいと思います。