利下げのリスク
2019年は世界中の国で利下げが行われています。あたかも利下げをすれば景気が浮上するかのように、どこの国も実施している感があります。
私も次回9月のFOMCでは、FRBは利下げするだろうと思っています。
でもいったん冷静になって、考えてみましょう。アメリカは今利下げをして大丈夫なのでしょうか。
利下げの本質は借金をしやすくすることです。
借金は、未来に手にするお金を前借りをして消費や設備投資を促す働きがあります。当然ながら使い方を誤れば、景気の逆効果になる諸刃の剣です。
不況時に借金をしやすくすれば、好景気の将来の収入を借金で前借りすることになるので、いち早く不景気を脱却できます。ただし、景気拡大時に借金をしやすくすれば、やがていつかは訪れる不況時の借金の額を増やしてしまい、事態を深刻化させかねません。
市場もトランプ大統領もFRBの利下げを心の底から望んでいますが、一方で直前のGDP速報ではアメリカは個人消費が前期比+4.3%で増加していいるため、今のタイミングのFRBのさらなる利下げは、不況時の事態を深刻化しかねないリスクがあります。
市場だけでなくFRBの連銀総裁たちも利下げに賛成しはじめていますが、前回7月FOMCでも利下げに反対票を投じていたボストン連銀総裁は、まさにこの景気拡大時の利下げの負の影響を懸念しているようです。
景気拡大期の利下げを懸念するボストン連銀
トランプ大統領は短期間にFRBが1%の利下げをするべきだと、繰り返し主張しています。
トランプ氏「短期間に1%利下げ必要」、FRBに再び圧力(ロイター)
しかし、その同じ日にトランプ大統領と最も対極な姿勢をメディアに示したのはボストン連銀総裁です。
ボストン地区連銀のローゼングレン総裁は、世界の景気が弱まっていることから利下げに一定の理解をしながらも、米経済情勢は依然として好調で、利下げを支持する意向はないとの考えを示しています。
米経済は好調、利下げなら次の景気後退悪化も=ボストン連銀総裁(ロイター)
景気後退時のリスクを懸念してのことだと思います。
利下げよりも米中貿易協議合意を主張するシーゲル博士
さてもう一度、先程の問いに帰ってみましょう。いまアメリカは利下げをするのが得策なのでしょうか。
アメリカの個人消費は前期+4.3%で成長していますが、一方で設備投資等の落ち込みから民間投資の成長はマイナス5.5%に落ち込んでいます。金利の引き下げは落ち込んでいる民間投資を救いますが、絶好調の個人消費で借金を増やしかねません。
(アメリカのGDP成長率の内訳はジェトロの資料参照)
そもそも民間投資が落ち込んでいるのは、米中の対立から企業が先行き不安を感じて投資を控えていることが大きいです。GDP成長率の内訳を見ると、マイナスに転じているのは民間投資と輸出ですが、ともに米中貿易の影響を受けています。
つまり、アメリカに今必要なのは利下げよりも、中国との貿易協議の合意である可能性が高いです。
株式投資の研究で有名なジェレミー・シーゲル博士は、政策金利利下げよりも米中の貿易協議で合意することのほうが優先課題だと話していました。最初その話を聞いた時になぜそのように言えるのか、その理由が腹に落ちなかったのですが、今ではしっくりきます。
GDPの内訳で落ち込んでいる民間投資と輸出のマイナスをプラスへと引き上げるからです。また米中貿易協議の合意は利下げと違って諸刃の剣にはならないため、利下げよりも良策に思えます。