最近は、ずいぶんとヨーロッパのほうで何かとニュースが多いです。
ドイツ銀行は世界的にリストラを進めており、ギリシャでは最大野党によって4年ぶりの政権交代が行われ、IMFラガルド議長が次のECBの総裁に決定しています。
一見するとこの3つのニュースは表面上は別々のニュースですが、根っこではユーロの金融政策の失敗が見え隠れしている気がします。まるで水面下で繋がっている蓮の花のようです。(このイメージ伝わりますでしょうか。伝わりにくい表現ですみません)
超低金利にあえぐドイツ銀行
ドイツ銀行は経営再建の真っ只中で、社員の2割にあたる1.8万人のリストラ、株式事業からの撤退、投資銀行部門の資産分離を進めています。
次々と再建をすすめるドイツ銀行が最近頻繁にニュースになっていますが、先進国の銀行はすべからく低金利で厳しいビジネス環境下にあります。ヨーロッパの中央銀行のECBは2016年3月からずっと政策金利を0%に据え置いており、ドイツ銀行を苦しめていると日経新聞は伝えています。
ドイツ銀は景気が回復して金利が上がり始めれば収益は回復すると見込んでいたが、欧州中央銀行(ECB)の超緩和政策の長期化で目算が狂った。(日経新聞)
ECBやIMFなどの緊縮財政要請で失われた10年に陥ったギリシャ
ギリシャでは4年ぶりの政権交代が行われました。敗れた与党は4年前に反緊縮財政を掲げて、政権を勝ち取ったものの、ECBや国際通貨基金IMFに詰めよられて、公約を守れず緊縮財政をせざるをえなくなり、支持を失ったようです。
当時のギリシャは財政赤字が拡大しており、国際通貨基金IMFやECBなどから支援金を受ける代わりに、緊縮財政を強いられていました。わかりやすく言えば、IMFなどは「お金出すから、ギリシャはひどい政府支出を減らしなさい」と要求したわけです。
政府の支出は、民間企業に収入になる公共事業や公務員などの国民の給料に当たるので、政府の支出を減らすと当然ギリシャ国民の収入が減り、景気は悪化しました。
緊縮財政のおかげもあって、2018年にギリシャは財政赤字を改善し、IMFなどの金融支援から脱却して自主的な再建を進められるまでになりましたが、一方でGDPは危機前の4分の3に縮小し、失業率も18%にも登って、どこかの極東の島国のように失われた10年を過ごすことになりました。
ギリシャがユーロ通貨ではなく、自国の通貨を発行していれば、ここまで厳しいIMFやECBの管理下におかれなかったと思います。実際、自国通貨を発行する日本はギリシャよりも高い債務水準でもギリシャのように債務不履行の危機に陥らず、IMFの管理下にもおかれていません。
この10年でギリシャやイタリアなど、統一通貨のユーロの脆弱性が明らかになった気がします。統一通貨では、自国の中央銀行が市場から国債を買い取って市場のマネーを増やす量的緩和策も自国の判断で行えません。また、景気よりも財政再建を優先して進めるIMFなどの旧来のやり方では、長期に渡って景気に大きなダメージを与えることもわかってきました。
ユーロ圏内での関税の撤廃、住居や仕事の自由は今まで通りで良いと思いますが、そろそろ単一通貨のユーロは見直したほうが良い気がします。このままでは、取りうる金融政策に限界があり、第2・第3のギリシャのように失われた10年を送る国を増やしかねません。
まとめると今のユーロ問題点は、この2つです。
- 統一通貨がゆえに、各国の金融政策に限界がある。
- 財政再建を優先するあまり、長期の景気後退を招き、失われた10年をもたらしている。
ギリシャに緊縮財政を強いたIMFラガルド議長がECB総裁に
そして上で悪の親玉のように書いてしまったIMFですが、そのIMFのラガルド議長は、ECBの次期総裁に選ばれることが決まったようです。
ラガルドさんがどのようなポリシーを持っている人なのかは、まだ就任前で分かりかねますが、現在の実績としてはIMFでギリシャの財政赤字を立て直した一方で、長い景気低迷を導いた人です。ただし、財政再建よりも景気回復に重きを置く現代的な経済理論には、慎重な姿勢を示しながらも一定の理解を示すなど、今後の金融政策に期待が持てる人でもあります。
現代金融理論は万能薬でない、ただデフレ時は有効か-IMF専務理事(ブルームバーグ)
景気低迷の認識が広まるEU
ラガルド議長の就任は10月からですが、EUは景気の低迷がじわりじわりと認識され始めていて、いきなり難しい舵取りを迫られそうです。
ECBのメンバーであるフィンランド中央銀行のレーン氏は、今のユーロ圏が一時的な景気落ち込みで終わらない可能性もあり、景気が悪化した場合に備えて準備すべきだと発言して注目を集めています。
ユーロ圏経済の減速はもはや「一時的な落ち込み」と見なすべきではなく、欧州中央銀行(ECB)は景気が悪化した場合に備えて準備すべきだ。ECB政策委員会メンバー、フィンランド中銀のレーン総裁が述べた。(中略)ECBは「いつでも新たな資産の購入を再開することもできる」としたほか、1カ国が発行した債券をECBが買い入れる割合に法的な制限が設けられていることについては、「一定程度の柔軟性」があるとの認識を示した。(ブルームバーグ)
次の不況ではユーロは10年前のサブプライムローン問題の時よりも、遥かに難しい状況で迎えることになります。現時点で金利は0%でこれ以上に下げれば、銀行業界に更に悪影響を与えかねません。また、前任の総裁は量的緩和策も2018年12月に終了したばかりで、購入した多額の債券は積み上がったまま全く減らせていない状況です。
さすがに、この状況はラガルドさんにも同情の余地がありますが、ここをうまく乗りからないとユーロは次の5年で割と大変なことになるかも知れません。経済史で振り返った時に、次の数年で行う金融政策がユーロ経済の分かれ道になる可能性があります。