昨晩にアメリカで発表された小売の売上高のデータを眺めていたのですが、実に今のアメリカの様子をよく反映しているなと改めて思いました。
この記事では、小売のデータを見ながら考えたことをつらつらと考えていきます。
この記事のポイント
- 6月までのアメリカの景気は良かった。新型コロナの不況以前よりもハイペースで消費が拡大していて、過熱気味かも知れない。
- 好景気の要因を探ってみると20年5月、21年1月、3月に大幅に小売売上が伸びている。これは現金給付があったタイミングと重なる。
- しかし、現金給付の効果は数ヶ月で消えること、今後は現金給付の予定もないことを考えると、アメリカは急速に景気拡大ペースが鈍化する恐れがあるかも知れない。
パンデミックが無かった場合よりも消費が活発化している
7月16日に発表されたアメリカの小売売上高ですが、グラフを見ながら少し奇妙なことに気づきました。
次のグラフは、過去5年分のアメリカの小売売上金額をグラフにしたものです。
上のグラフには、パンデミックが起こる前の売上高のペースを赤い点線で書きましたが、今の2021年の景気はパンデミック前のペースを大きく上回って小売の売上がのびています。
つまり、もしも2020年に新型コロナウイルスの感染拡大が起こらなかったとして、その場合よりもコロナを脱した今のアメリカのほうがずっとモノ・サービスが売れていることになります。
ただ単に感染が拡大した後に脅威が去っただけなら、元の売上ペースに戻るはずです。よく考えてみると少し不思議なことです。
小売の売上が急上昇している原因
なぜパンデミックが起こった現在のほうが、パンデミックが起こらなかった場合よりも消費が進んでいるのでしょうか。
その謎も小売の売上高のデータを良く眺めてみると、直ぐにわかります。
次のグラフは毎月の小売売上高の伸び(前月比・年率)を調べたものですが、売上高が急速に伸びたタイミングが3回あるようです。
小売の売上高が急激にのびた3回の時期の2020年5年、2021年1月、2021年3月は、何があったか記憶にある人も多いと思います。
3回ともすべて、アメリカ政府が景気対策のために国民に現金を配った時期と重なります。
この3回の現金給付がアメリカの消費を後押しして、結果的にパンデミックが無かった場合よりも消費を急成長させているようです。
さいごに
この記事では6月までのアメリカの小売の売上高のグラフを見てきました。
2021年現在はパンデミック前を上回るペースで売上高が伸びているようですが、どうもアメリカ政府の現金給付が原因のようです。
この考えが正しいなら困ったことがいくつか見えてきます。
まず、現金給付で消費が押し上げられる効果はわずか数ヶ月しか続かず、急減速する傾向があることです。
もう一度、毎月の消費の伸びを示したグラフ(下図)を見てみるとわかりますが、現金給付を受けてもたった2-3ヶ月後には効果は薄れています。
2021年に消費が伸びている理由は、新型コロナウイルスが流行している時期にはできなかった買い物を楽しんでいるというのもあるかも知れませんが、それも時期に落ち着きます。
そうなると恐らくですが、小売の売上高のペースはまたパンデミック以前のペースに戻るはずなのです。
以下の小売売上高のグラフでいうと赤い点線のペース(傾き)に戻っていく途中で、景気は拡大しているのにそのペースが大きく鈍る時期がやってきます。
2021年はインフレ率が大きく上昇したままですが、一方で2021年後半には景気拡大ペースが急に落ちるかも知れず、かなり不安定な時期を迎えることになるかも知れません。