2019年9月には、アメリカでレポ金利と呼ばれる短期の金利が高騰して、投資家をヒヤッとさせました。
ただ、私のようにレポ金利とは関係なく生きている人にとっては、「何が起こっているのか、よくわからない」というのが普通の反応だと思います。
この記事では、レポ金利をちゃんと理解したい人向けに、少し長めですが丁寧に解説しています。レポ金利って一体何なのか、金利が上がった背景には何があるのかを書います。
この記事のポイント
- レポ市場は国債を担保に数日だけ現金を貸し借りできる市場。銀行・保険・ヘッジファンドが利用。
- レポ市場で現金を借りた企業の支払う利率が、レポ金利。
- レポ金利が上昇した原因を特定するため、米財務省は本格調査を開始した。
- ただし、金利上昇には少なくとも2つの政策が関係している模様。
- 1つは、危機にそなえて銀行に一定以上の現金を持つことを義務づけた法律。現金を貸し出せる量が減った。
- もう1つは、FRBがリーマンショックの景気対策で大量に買った国債の処分。結果、金融機関の現金が減った。
投資初心者は「レポ金利で現金が足りなくなって短期金利が急上昇したけど、FRBが資金を投入して抑え込むことに成功しつつある。ついでにその資金のおかげで、めぐりめぐって株価も上がった」という理解でまずは大丈夫です。
詳しく理解したいと思う時がきたら、このページを思い出して読み返して下さい。
レポ市場ってなに?
レポ市場は、国債を担保にして、最短1日から数日だけ現金を貸し借りできる取引ができる場所です。主に、銀行、証券会社、保険、ヘッジファンドたちが利用しています。
「1日単位で現金を貸し借りして、何が嬉しいの?そんなに、その日暮らしで危ないやりくりをしているの?」と思うかも知れません。でも、これは債権投資をしている銀行やファンドにとって、かなり助かる仕組みです。
私たちの生活でも、家賃やクレジットカードの支払い日を思い出して「やばっ!すぐに支払い口座にお金を振り込まなきゃ」ということがあると思います。
投資をしたことがある人なら経験あるかと思いますが、株や債券で資産を売れば現金が手に入るのに、売って現金を手にするまでには時間がかかります。なので、資産はたくさんあるし、数日すれば収入も入ってくるのに、今日支払う現金が不足するという状況が出てきます。
企業なら税品の支払いや国債購入時に一時的にまとまった現金が必要になる時がありますが、その時利用するのがレポ市場です。
レポ金利ってなに?
たった1日の現金の貸し借りでも、金利はちゃんと存在します。レポ市場で現金を貸し借りするときの金利がレポ金利です。
レポ金利は普通はかなり低く設定されています。銀行が中央銀行FRBの口座に預ける利子(FF金利:政策金利)と同じくらいか、少し高いくらいの金利です。
なお、レポ市場で貸し倒れした場合には、担保の国債を自分のものにできます。リスクはほぼゼロで手持ちの現金でより預金よりも高い利息が手に入るので、「現金を持っている企業は預けるくらいなら、レポ市場に貸して儲けよう」という企業が、レポ市場で現金の貸し手になります。
つまり、レポ市場は次のような参加者の需給バランスで成り立っています。
- 需要(現金の借り手):資産はあるのに、税金や国債購入で一時的に現金に困っている企業
- 供給(現金の貸し手):余分な現金が手元にあって、リスクなく少しでも高い利息収入が欲しい企業
また、レポ金利は需要と供給のバランスで決まります。
- 現金を借りたい企業が、現金を貸したい企業より増えれば、レポ金利が上昇
- 反対に、現金を借りたい企業が現金を貸したい企業より減れば、レポ金利が下落
でも、見逃せないような金利の急上昇が起こると、FRBが大量に現金を供給して金利を抑えます。2019年9月には、通常2%程度の金利が一時的に10%になりましたが、このときにはFRBが現金を供給して金利を抑えました。
なんでレポ金利が上昇すると危険なのか
2019年よりも前に、レポ金利が急上昇したのはリーマンショック時だったと言われています。この時は、取引の損害を埋め合わせるための現金が大量に必要になってレポ金利があがりました。
2019年9月のレポ金利上昇でも、大きな取引の損害があったか心配されました。でも、FRBは法人税と国債発行のタイミングが重なっただけと説明をして、市場は落ち着きを取り戻しています。
ただし、金利は高いままではレポ市場で現金を調達できません。
銀行も保険会社も泣く泣く持っている資産を売って現金を作る動きが出たら、株式市場や債券市場が売られてしまうので、FRBがレポ金利を引き下げています。
2019年9月のレポ金利上昇の原因は調査中
FRBは「法人税支払いと国債購入のタイミングが重なって、現金の需要が増えてレポ金利が上がった」と言っていますが、この説明だけでは少し疑問が残る点があります。
というのも2019年9月の時点で、銀行の余分な現金は1.2兆ドルもあったのに、レポ市場の貸し手になっていなかったからです。
次のグラフは、銀行が中央銀行に預けている余分な現金(超過準備金)のグラフですが、2014年のピークに比べたら減ったものの、リーマンショック前の2007年時に比べたら、桁違いに多くの現金を銀行は持っています。
どうして、銀行は現金を持っていたのに、レポ市場で現金を貸さなかったのでしょうか。
債権王のガンドラックは「国内の需要が別のところにあるため、レポ市場で低金利での取引ができない」と言っています。
別の需要が何なのかは明言はありませんでしたが、現金があってもレポ市場で貸せない理由があるか、もしくはレポ市場よりも優先して現金を使いたい理由があるのかも知れません。
レポ金利上昇の原因は米財務省が調査中
レポ金利上昇の原因を調べるために、アメリカの財務省は本格調査に乗り出したようです。
>>米金融規制当局が本格調査-レポ市場混乱、潜在的リスクと認識(ブルームバーグ)
財務省の調査結果でどんな報告があるか気になるところですが、銀行やFRBの話を聞く限り、レポ金利が上がった背景は既にいくつか検討がついているようです。
1つは危機に備えて銀行に現金を保有するように決めた法律、もう一つはFRBがリーマンショック時に大量に買った国債の処分です。
貸したくても貸せなかったJPモルガン
アメリカ大手銀行のJPモルガンは、2019年9月のレポ金利が上昇した時を振り返って、たしかに手元に現金はあったが、法律に縛られて銀金を貸せなかったと言います。
アメリカではリーマンショックの反省から、金融危機が30日間続いても潰れないように、銀行は手元に現金を置いておくように法律で決められています。この法律のせいで、現金が貸せなかったと言います。
市場から現金を奪っていたFRB
またFRBが2019年8月まで満期を迎えた大量の国債を償還(元金を返してもらうこと)をしていたことも、銀行がレポ市場に貸し出せる現金を奪っていたようです。
- FRBがリーマンショック時に買い取った大量の国債のうち、満期を迎えた分の元金を米財務省に支払ってもらう。
- 米財務省はFRBへの元金支払いのために、新規国債を発行する。
- 新規国債は民間の銀行などが余剰現金を使って買う。(レポ市場で貸せる現金が減る)
この懸念を払拭するために、FRBは9月から大量に市場に資金を供給する手に出ました。その効果もあって、レポ金利は既に落ち着きを取り戻しています。
まとめ
レポ金利とは何か、なぜ金利が上がったのかを見ていきました。なぜ、金利が上がったかについては、まだハッキリとした原因がわかっていませんが、法律による規制と、FRBよる国債の償還が大きな影響を与えている可能性があります。
FRBは自分たちがやった国債の償還が悪い影響を与えた可能性を恐れて、早速2020年上旬まで市場から短期債を買い取って、市場に現金を供給する策を打ち出しています。
ただ、短期債をFRBに売った市場参加者は大量な現金を保有し始めていますが、その全てを現金で持っているわけではなさそうです。
短期国債の大量購入した後から、株も順調に上がっているところを見ると、FRBの短期債購入で市場が得た資金は現金だけでなく、株にも向かっているように見えます。