市場の投資家からの注目度はかなり低いのですが、レッドブック・リサーチが発表しているアメリカの小売店売上を見ていきたいと思います。
私も普段はこのデータをあまり見ていないのですが、今週ばかりはこのデータが少し目に留まりました。
アメリカの小売店では2022年から成長率の鈍化が続いていましたが、先週ついに前年比での売上高がマイナスになった模様です。
この記事のポイント
- レッドブックは7月7日週に、アメリカの小売(既存店)の売上前年比がマイナス成長に陥ったと発表。
- やはり、消費はゆっくりとだが落ちてきている。まだ売上悪化傾向が収まっている兆候はまだない。
- なお、小売売上が落ち込んでもアメリカGDPに影響が大きい個人消費はすぐにはマイナスにはならない(旅行や医療などのサービス売上を含まないため)。
レッドブックの小売売上高はマイナス成長に
まず、レッドブック・リサーチが発表している小売の既存店売上とは、何かを簡単におさらいしておきます。
レッドブックは大手小売店を中心にアメリカの小売9000店を対象に、(新規出店の店舗を含まない)既存店売上を集計しています。
多くの投資家は毎月月末に政府から発表されるアメリカの個人消費を確認したり、個人消費よりも2週間早く発表される小売売上高を見ていると思いますが、レッドブックは注目度は低いものの毎週小売のデータを発表しているため状況をいち早く確認できます。
そして、7月7日週分の既存店売上成長率がレッドブックから発表されたのですが、今週は2020年のコロナ不況以来初めてのマイナス成長でした。
- 既存店売上:前年比マイナス0.7%
下図に過去1年間の小売既存店売上の成長率の変化をグラフにしました。2022年からゆっくりとした売上成長の低迷が続いていたのですが、ついにマイナス成長になったようです。
注目度が低いデータなのでマイナス成長に陥ったからと言って、株価が大きく下がったりはしないのですが、モノの消費が弱まっているという傾向が7月に入っても続いているという認識は持っておいて損はなさそうです。
すぐに景気後退になるわけではない
ただ、レッドブックの小売売上がマイナス成長に落ち込んだからと言って、すぐに「アメリカは景気後退が近い」ということにはならないと思います。
小売売上には含まれないサービス消費(たとえば旅行費や医療費など)が多く存在して、恐らくそれらのサービス消費はまだいくらか調子が良いと思われるからです。
それは最近の個人消費と(レッドブックではない政府発表の)小売売上高の関係を見てもわかります。
今回取り上げたレッドブックの小売売上高がマイナス成長になった話は、どちらかというと上図で赤線の小売売上高に影響します。
レッドブックが示す通りなら、上図の赤いグラフの7月分のデータ(8月中旬発表)はマイナスになるかもしれないという話です。その時もまだサービス支出が強いなら、個人消費(上図青い線)はまだプラス圏内にいるはずです。
アメリカGDPに影響するのは小売売上高ではなく個人消費なので、アメリカの景気後退もまだもう少し時間がかかりそうです。
消費が鈍化傾向なのは変わらず
そうは言っても、長期的に見ると小売売上高も個人消費も似たような動きをします(下図)。
今の景気サイクルではコロナ流行後のモノの消費回復が大きかった分、2023年は先にモノの消費が低迷し始めましたが、次第に個人消費も低迷するはずです。
市場は2023年の景気後退確率を次々と引き下げていますが、私はまだ可能性がなくなったわけではないと思っています。基調としては消費は鈍化路線を辿っています。
最後に、7月に入ってレッドブックの数字が悪化したことは、小売企業の7-9月期の業績見通し悪化につながる恐れがあります。これから始まる決算シーズンでは、恐らく4-6月期の業績は悪くないと思いますが、7-9月の小売業界の業績見通しはさえない恐れがあります。