政策金利を引き下げ
米国のセントルイス連銀ジェームズ・ブラード総裁が「早期に政策金利引き下げが必要になるかもれない」と発言した翌日、先に政策金利を引き下げたのはオーストラリアでした。
6月4日、オーストラリアの金融政策を決める中央銀行のオーストラリア準備銀行は、政策金利を引き下げて1.25%とすることを決めました。今回の金利引き下げは経済成長の鈍化がみられるオーストラリア経済を支えるための政策で、金利の利下げは2016年以来初めてのことです。
オーストラリア経済をウォッチする意味
さて、米国株の投資をしている身からすると、オーストラリア経済は普段ではそんなに気にしなくていい内容だと思うのですが、ちょっとだけ気になるのは中国への輸出割合が高い国だということです。激化する米中貿易戦争の余波を受けている可能性がないか、今後受けることがないかが気になっています。
ちなみに今回のオーストラリアの政策金利引き下げは、中国への輸出不振が直接の原因ではありません。ローン残高も積み上がって住宅投資が伸び悩むなど、2018年後半から経済成長率の鈍化が見えていたことから政策金利引き下げを行ったようですが、今後米中貿易戦争による中国の経済成長の鈍化が、オーストラリアから中国への輸出を減らす展開もあり得ると思っています。
不況は思ってもみないところから火がついて、飛び火する可能性があります。
今、米国と中国はお互いに関税を引き上げて景気に減速をかける動きを見せていますが、このような状況で最初に音を上げるのは、アメリカでも中国でもなく、周囲にいて巻き添えを食う小国だと思っています。
オーストラリアは本来であれば、米中貿易戦争で真っ先に巻き添えを食うような小国ではありません。しかし、運悪くもともと景気の減速が懸念されていたタイミングで、米中の貿易戦争まで加熱しはじめていて、中国への輸出が3割を超えるオーストラリアとしては経済にさらなる悪影響が出てくる恐れがあります。
今後のオーストラリアの金融政策のニュースが出てきても内容についていけるように、オーストラリア経済の様子を簡単に整理しておきたいと思います。
中国への輸出依存度を強めた2000年代のオーストラリア経済
オーストラリア政策金利引き下げのニュースから始めてしまった記事なので、オーストラリア経済によろしくないイメージを与えてしまったかもしれませんが、実はオーストラリアは先進国で稀にみる長期間に渡って経済成長をしている国です。
連続する2つの4半期でマイナス成長をした場合にリセッション期(景気後退)に突入したとみなしますが、オーストラリアはなんと1991年を最後にリセッションを経験していません。また、成長率が鈍化したとは言え2019年6月時点でもまだリセッション入りしていません。
かの悪名高いリーマンショックで世界中の景気がマイナス成長に沈んでいるときも、わずか1四半期でプラス成長に回復してリセッション入を免れています。そのリーマンショック時に、オーストラリアの景気を支えてくれたのが中国でした。
オーストラリアから中国への主な輸出品は鉄鉱石や石炭などの資源で、中国への輸出は2000年の68億豪ドルから17年には1159億豪ドルと17倍に跳ね上がり、今やオーストラリアからの輸出額の3割が中国向けになっています。
オーストラリア景気減速要因は住宅価格調整と干ばつ
ただし、順調に見えたオーストラリア経済も2018年に変調を迎えます。2019年4月にIMFがオーストラリアの景気減速を伝えるレポートで警戒を促しています。
IMFは4月9日、世界経済見通しを発表した。それによると、世界経済の伸び悩みは2019年前半も続き、オーストラリア経済も、2019年の実質GDP成長率は2.1%に減速する見通しだという。2018年4月時点では、IMFはオーストラリアの2019年の成長率を3.1%と予測し、2018年10月の見通しで2.8%に下方修正していたが、今回はより大幅な下方修正となった。(IMF)
参考記事:IMF、オーストラリア経済の減速を予測(ジェトロ、ビジネス短信)
2018年第4四半期に成長率が減速した要因は2つです。「可処分所得の伸び悩みや住宅価格の調整による個人消費の減退」、「干ばつによる農業への悪影響」です。
このうち「干ばつ」については気候に関することなので、翌年には改善される一過性の問題にも見えます。気になるのは個人消費についてで、Forbesによると不動産が住宅バブル崩壊前の2007年アイルランドと共通点があるとして、警戒を促しています。
国際決済銀行によると、オーストラリアの家計債務の対GDP比は昨年(2018年)9月の時点で120.5%。世界で最も高い水準だった。アイルランドのこの比率は2007年、およそ100%だった。(Forbes)
参考記事:オーストラリアの住宅バブルが崩壊寸前、世界経済に危機の予兆?(2019/4/11 Forbes)
中国の景気に連動し始めた豪ドル
2019年1月、中国の販売不振を理由にアップルが目標利益の未達を発表したアップルショックの際、中国の景気減速懸念が強まってオーストラリアドルは一時的に0.67ドル台と、2009年3月以来約10年ぶりの安値を付けています。
また、それ以前にも中国の経済成長鈍化を受けて2018年にはオーストラリアドルが米ドルに対して年間約10%下落するなど、オーストラリアは中国への依存度を強めているように見えます。
さて、こうした状況の中で2019年5月には米国と中国の貿易戦争がにわかに加熱し始めています。今、風邪のひきはじめのオーストラリアに影響が及ぶと、小国ではないオーストラリアでも発熱しやしないかと危惧しています。
最近は経済でウォッチするものが増えて大変ですが、オーストラリア経済も主要メディアで取り上げられている場合には、記事を確認しようと思います。