ノボノルディスクが進める、パートナリングを活用した開発戦略。

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このブログでは海外株投資を始めた2013年から、今後世界中に糖尿病患者が増えることを見越して、この業界で長年インスリンの開発で引っ張ってきたノボノルディスクに注目して、株を購入してきました。

ノボノルディスクの製品開発戦略を刷新するなど新しい取り組みを始めており、その内容をこの記事で紹介したいと思います。2018年に舵を切ったノボの開発戦略の幹となるのは、以下の2つです。

  • 研究開発スピードを上げるために、開発リードする組織を設けること
  • 自社だけでは開発が難しい製品は、積極的に他社・大学との共同開発やベンチャー企業の買収を通じて技術を獲得する

これら自体は特別に、真新しいものでは無いかも知れません。開発拠点を集約することで情報を集約しやすくし、開発スピードを上げることもできますし、他社との共同開発もしやすくなります。また、共同開発を促進することで、自社だけでは出すことが難しかったアイディアを出したり、製品開発においても共同開発社のノウハウやスキルを活かした新製品を利用できるメリットも大きいです。

他の業界の製品開発部門でも、よく用いられている手法ではありますが、実施しただけで成果が伴わない企業が多い中で、近年のノボでは飲むタイプのインスリン治療薬の開発など、共同開発の成功例をいくつかみることができます。

記事前半では、開発方針としてノボが共同開発を意識するようになった背景を紹介し、後半では成功事例を積み上げていくことによって、ますます共同開発を加速していく様子をご紹介します。

新しい開発研究戦略を発表した背景

製薬会社にとって重要なのは、開発済みの薬で利益を出しつつ、その水面下では主力製品の特許切れに備えて次々と新製品の開発を行うサイクルを回すことです。しかし、約100年も業界をリードしてきたノボノルディスクですが、動きの速い現代で短期間に革新的な製品を開発しつづけるのは簡単ではなく、米国の薬価引き下げの影響も受けて、デンマーククローネでの会計では2017年、2018年ともに売上増加ほぼなしの0%成長に甘んじています。

また、ライバル会社が出している糖尿病治療薬で、膵臓からのインスリンがの分泌を促進するタイプ(DPP-4阻害薬)や、血液中のブドウ糖を尿の中に多量に排出させることで血糖値を下げるタイプ(SGLT2阻害薬)の処方が伸びている背景に、これらが注射ではなく、飲み薬で患者にとって使いやすいこともポイントでした。

ノボが開発販売しているインスリンも、インスリンの分泌を助けるGLP-1受容体作動薬も、患者が注射針を使って投与するもので、これらの飲み薬化は重要な課題の一つでした。

2018年には製品開発戦略

こうした状況の中、ノボノルディスクは製品開発の加速化と多様化、特に飲み薬化などの今までに自社に持ち合わせていない技術の補完のために、2018年下半期に開発研究戦略を発表しています。

  • 世界4ヶ所に先端技術開発のための組織を設ける。
  • 製薬会社・大学・ベンチャー企業と共同開発を加速化

先端技術開発のための拠点

先端技術のための開発研究を集約することで専門性が高い人間同士がすぐに話し合える近場にいる環境を作り、製品の質と開発スピードをあげる効果が見込めます。ノボは、この新組織で幹細胞に関する研究を促進させたいとしており、インスリンが全く出なくなる1型糖尿病の根本的治癒方法に幹細胞を使った新しい療法を進めたい移行を示しています。

また、いまだ全貌は見えていないものの機械学習(人工知能の一分野)の技術を使った製品開発などにも言及しており、近々治療につかうデバイスでも新しい研究動向の発表があるかも知れません。

社外の技術を活用した共同開発の促進

ノボノルディスクは積極的に他の製薬会社・大学・ベンチャー企業と共同開発することで、今までの自社の開発能力だけでは作れなかった製品を生み出そうとする動きが活発化しています。

実際に、2018年ノボノルディスクはGLP-1開発研究所の400人をリストラする一方で、大学との共同研究や製薬会社との共同開発を強力に推し進めて、成果を見せ始めています。

2018年の年次報告書には”Partnering for innovation(イノベーションのためのパートナリング)”というページをさいており、パートナリングを組んでいる会社・組織が紹介されていたので、ここで代表的なものを取り上げたいと思います。

ノボノルディスク年次報告書2018

エミスフィアとの共同開発による飲むGLP-1受容体作動薬

ノボや、ライバルのイーライリリー社が発売しているGLP-1受容体作動薬は、血糖値を下げながらも、投与しすぎることで低血糖を起こす危険性も低く食欲も抑えることができる薬ですが、注射で打つタイプのものしかなく、その他の飲み薬(DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬)と異なり使いにくい点でした。

また、同じGLP-1受容体作動薬の中だけで比較しても、イーライリリー社のGLP-1受容体作動薬トルリシティにリードされており、ノボとしてはGLP-1領域で巻き返しを図りたいところでした。

GLP-1受容体作動薬を飲み薬化する時の難しさは、GLP-1が数十個のアミノ酸で構成されるホルモンなので、そのまま口に含んでも消化管で分解・破壊されて、薬の構造のまま体内に取り込むことができないことです。

従来から注射での薬の投与がメインだったノボが、飲み薬化を進めるにあたって手を組んだのが、飲み薬に関する特殊な技術をもつエミスフィア・テクノロジーズ(Emisphere Technologies)です。この共同開発によって、世界初となる飲むGLP-1受容体作動薬である経口セマグルチド実現への突破口を開くことになります。

<参考記事>:
http://13.231.133.41/novonordisk-oral-semaglutide-will-file-in-2019/

飲むGLP-1受容体作動薬(経口セマグルチド)は2018年までに全ての臨床試験を無事に終えて、2019年第1四半期で米国薬剤管理を行う当局(FDA)に申請をする段階まで来ており、発売まであと一歩の段階です。

飲むGLP-1受容体作動薬の開発のインパクトは大きく、このエミスフィアとの共同開発の成功体験をもとに、2018年から開発研究でもっと他社と組んでいこうと戦略を見直したように見えます。

メリオンと提携し、飲むインスリンの小規模臨床試験を成功

飲むGLP-1受容体作動薬よりもノボノルディスクの悲願とも言えるのが、こちらの飲むインスリン(経口インスリン)です。ノボノルディスクはメリオン(Merrion Pharmaceuticals)と提携し、経口インスリン製剤(開発コードOI338)を2017年まで試験を行っていました。

その仕組はメリオンが持つ、胃腸管吸収促進技術(GIPET)を応用して作られた特殊カプセルにインスリンを流し込むもので、本来インスリンが破壊されやすい胃では壊れず、腸でインスリンが体内に吸収される仕組みになっています。

臨床試験は初期段階で50人の糖尿病患者に対してだけ行われたものですが、結果は注射型インスリンと同程度の性能と安全性が示され、世界で初めて飲むインスリンの有効性が示されました。

参考URL:米国糖尿病学会サイトより
Daily, Long-Acting Oral Insulin Tablet Provides Comparable Glycemic Control to Insulin Glargine Injection in Patients with Type 2 Diabetes

しかし、この飲むインスリンOI338の取り組みは2017年の発表と同時に、ノボの判断によって中断されました。その理由は、有効性やリスクに問題があったわけではなく、OI338では血液中にインスリンが入り込む割合(バイオアベイラビリティ)が低いので、多くの飲み薬を服用する必要があるのですが、その大量な飲み薬をノボ社の工場での生産する能力が確保できないビジネス上の理由から、開発研究は中断しています。

そして、同時期に開発していた飲むGLP-1受容体作動薬の開発と臨床試験を優先したものようです。とはいえ飲むインスリンのバイオアベイラビリティを高める技術的な課題を解く課題が残されているのが現象です。

MITとハーバード大学と共同開発した飲めるインスリン注射入り小型カプセル

悲願の飲むインスリンの開発は中断されましたが、一方で全く別のアプローチからインスリンを飲む研究も進められています。

ノボノルディスクは、MITとハーバードの研究者らと共同で、ブルーベリーサイズの飲めるインスリン注射の開発を2019年に発表しました。先程のOI338はインスリンをカプセルの中に入れて飲むものでしたが、MITとの共同開発したのは、小型のインスリン注射が入った新型カプセル(SOMA)を飲むというものです。

もっとも特徴的になのは、SOMAの形状です。飲んで胃に入った後には、その独特などんぐりのような形をしているために(公式にはカメのような形と言っています)です。胃の中をどう転がっても最終的に、起き上がり小法師のように、注射針が仕込んである「どんぐりの下部分」が胃の壁に接するように着地できるので、着地後1分でSOMAの壁面が溶けて針を出し、インスリンを注射できるのだそうです。

なお、針は凍結したインスリンで作られもののため注射後に体内で消化され、使用済みのブルーベリーサイズのカプセルは腸からそのまま排出されます。

胃の中は痛みを感じる神経がないため、注射をしても痛みを感じないとのことです。(昔から、喉元すぎれば熱さ忘れるとは、胃に痛みを感じる痛点が無いからなんですね。)

この新型カプセルSOMAは豚を使った実験も行っており、300マイクログラムのインスリン投与に成功し、皮下注射と同程度の効果を確認できたと報告しています。また、インスリンの投与量は5ミリまで増やすことができ、人への投与にも十分実用的な量としています。

参考:2019年2月8日科学雑誌サイエンス掲載
An ingestible self-orienting system for oral delivery of macromolecules