アメリカの5月の雇用統計が発表されました。
近年はツイッターなどで数字の発表後に速報をしてくれる人(例えばLiz Ann Sondersさんなど)もいるので雇用統計の結果はすぐに知ることができます。しかし、「数字はわかった。で、この数字は何を意味しているの?」というところが次に浮かぶ疑問だと思います。
なので、この記事では5月の雇用統計をどう解釈できるかを中心に書いていきます。
ポイント
- 予想よりも良い数字が並んでいた。ただ、インフレも雇用もまだ強いので、さらなる利上げを警戒して株が売られた。
- 賃金は予想ほど伸びていなかった。賃金以上に物価が伸びる今の状況は持続不可能なので、いつかアメリカに景気後退が訪れる。
- ただし、失業率を見る限りまだ景気後退までは時間がかかる。景気後退前からは上昇に転じるはずの失業率は、上昇していなかった。
雇用統計のポイント
今回発表された雇用統計の数字をおさらいしておきます。
雇用統計では(1)雇用者数の伸び、(2)平均時給、(3)失業率3つのデータが注目されるので、それぞれの結果からわかることを確認していきます。
- (1)非農業部門の雇用者数:+39.0万人(予想+32.5万人、前回+43.6万人)
- (2)平均時給:前月比+0.3%(予想+0.4%、前回+0.3%)
- (3)失業率:3.6%(予想3.5%、前回3.6%)
まず、(1)雇用者の伸びを確認すると前回よりも少ない増加ではありましたが、予想よりも雇用者は増えました。
要するに、思っていたよりも5月のアメリカは景気が良かったようです。ただ、「景気が良いのは良いことだ」とはならないのは、2022年の米国株の難しいところです。
今のアメリカは利上げを始めても、まだインフレを抑えられない状況です。そんな中で予想よりも景気も良いことがわかったので、インフレを食い止めるために一層の利上げもあるのではないかと投資家は考えたのかも知れません。
なので、利上げに弱いナスダックを中心に米国株は売られたようです。
賃金以上にインフレが進む状況は変わらず
次に(2)平均時給を見ていきますが、結果は前月比+0.3%で、こちらは予想していた+0.4%には届きませんでした。
これだけを見ると、「平均時給が伸びていないなら、インフレも伸びなくなるのでは?」という想像をした人もいると思います。
私もそう思いますが、少し気がかりなのは賃金が物価の伸びよりも大きく劣っている状況がかなり長く続いていることです。
モノの値段の上昇に賃金が追いついていないなら、このままではモノを十分に買えない消費者が数多く出てきてしまいます。
賃金が伸びなくなってインフレも鈍化する未来は高い確率で来ると私も思うのですが、このまま物価の伸びが賃金を上回り続けば景気低迷(不況)という形でインフレ率の低下がいつか訪れる気がしています。
景気後退前の失業率悪化はまだ
景気低迷はいつか訪れると書きましたが、ただし(3)失業率の動きを見ていると、まだ差し迫った感じはしません。
景気後退(≒不況)が訪れる前には失業率が増加に転じる動きが見られるのですが、それが始まっていないのです。
だから、このままではアメリカはいつか景気後退は訪れるかも知れないのですが、それは今後数ヶ月というほど差し迫ったものではなさそうです。
さいごに
まとめると、今のアメリカは予想していたほど景気は悪くないようなので、投資家はさらなる利上げができる余地があるとみて株は売られたようです。
また、賃金よりも物価の上昇が高い状態が続いているので、このままでは景気後退になる恐れがあるのですが、失業率を見る限りはまだ景気後退も差し迫っていないと思います。
最後に、少しだけ変化の兆しにも触れておきます。
今回の雇用者数の増加はまだ好調でしたが、この好調はまもなく崩れるかも知れません。最近のアメリカではレイオフ(一時的な解雇)やリストラ(解雇)が話題になり始めているからです。
>>マスク氏、テスラは採用凍結・従業員10%削減が必要-報道(ブルームバーグ)
「これから長期にわたって、好調な雇用統計を見るのはこれが最後になる可能性もある」という主旨のことをブラックロックが言ったと聞きましたが、悪い方の変化はもうまもなく数字になって現れると思います。