12月の雇用統計が発表されました。
ニュースヘッドラインなどでよく目にする「非農業部門雇用者数の伸び」などが予想よりも高かったため雇用が強いという印象も受けますが、内訳を見るとむしろ脆くなっているように見えます。
また、12月の雇用統計にはUAWなどのストライキによる賃金上昇が見られました。
この記事のポイント
- 非農業部門雇用者数と平均時給は予想以上に伸び、失業率は予想された悪化は見られなかった。
- しかし、雇用増加はパートタイム労働者と仕事のかけ持ちする人が増えたことが要因。企業はフルタイム労働者を大きく減らしている。
- 企業はフルタイム雇用者を減らしてパートタイムを増やしているが、これは経済が強い時の雇用の状態ではない。
一見強そうに見える12月のアメリカ雇用統計
12月の雇用統計ですが、注目が集まる以下3つの数字はいずれも予想を上回る結果になりました。
- 非農業部門雇用者数:+21.6万人(予想:+16.8万人)
- 失業率:3.7%(予想:3.8%)
- 平均時給:前月比+0.4%(予想:同+0.3%)
ただ、もっと細かい数字を見てみると、雇用は強くないことがわかります。
非農業部門雇用者数は21.6万人伸びていますが、下のグラフを見てみると企業はフルタイム雇用者を大量に削減しています。その一方で、人々は賃金を稼ぐためにパートタイム労働者となっているようです。
そして、複数の仕事をかけもつ人(フルタイム労働をしながらパートタイムをしたり、パートをかけもつ人)も増えているようです。複数の仕事をかけ持つ人の数はコロナ前を越える水準を超えて、1995年以降で最大を記録しています。
ストライキの影響について
また、今回の雇用時計では全米自動車労働組合(UAW)のストライキの影響が、時給に現れました。
このストライキで給料アップを勝ち取った製造業の平均時給は大きく上昇しています。次のグラフは自動車業界を含む製造業(耐久財)の非管理職の時給の伸び(前月比)を示したものですが、大きな伸びが確認できます。
こうした時給の伸びがどれだけ影響しているかわかりませんが、とても簡単な推論として「企業は労働者が望む時給アップを実現するためにフルタイム雇用者を減らしているのではないか」という説が浮かび上がってきます。
フルタイムの職を失って生活に困った労働者がパートタイムでも良いからとにかく働き口を探した結果、フルタイムの労働者が減り、パートタイムの労働者が増えたのかもしれません。
ストライキによって労働者は時給のアップを勝ち取りましたが、職を失うという本末転倒ぶりです。企業としてもない袖は振れないので、仕方ないのでしょう。結果的にはストライキは雇用を弱める方向に働いたようです。
最後に
というわけで一見すると12月のアメリカの雇用統計は強かったように見えるのですが、内訳を見るとほころびが多く見られました。
たしかに時給は伸びているのですが、労働者から要望が出ている時給アップを実現するためなのかフルタイム雇用者を削減する動きが見られます。雇用社数の増加は仕事をかけ持ちする人の増加とパートタイムの増加がもたらしたもので、これは経済が強いときの雇用者の増え方ではありません。
11月のデータまでは雇用が強いな感じていたのですが、12月の雇用統計ではやや雲行きが怪しくなってきました。
2024年前半はアメリカ経済は持ちこたえると思っているのですが、早くもアメリカの雇用には少しあやうい様子が見え隠れしています。