この記事を書いている2019年12月、投資家の心理はやや冷え込んだ印象があります。
12月に入ってからまだ2営業日ほどですが、連日株価も落ち込んできています。
株価下落の要因に多くのメディアはアメリカと中国の貿易協議の難航など、貿易関連のニュースをあげています。
でも、投資家はアメリカの貿易関連のニュースにはあまり注意を払わなくて良いと、個人的には考えています。
この記事では2019年12月に市場が冷え込んだ要因をひろった上で、投資家が貿易ニュースに過度に心配する必要がない理由と、貿易以上に注意を払ったほうがいいと思われる情報についてお話します。
この記事のポイント
- 市場の心理を冷やす出来事がいくつか起こっている。「米経済指標の悪化」、「ブラジル・アルゼンチンへの関税発動」、「フランス関税引き上げ示唆」、「中国との貿易交渉の長期化」など。
- ただし、長期投資家は貿易のニュースに注意を払う必要はない。
- トランプ政権は株価が好調なときに関税を引き上げて各国と交渉し、株価が下落したら交渉をまとめて関税を撤廃してきたから。今回も同じトランプ相場のパターンが見られる。
- 一方で、警戒すべきは「経済指標の悪化」。もしも関税でアメリカ経済が悪化した場合には、今までのトランプ政権のパターンも崩れる。
投資家心理を冷やす出来事
2019年11月は「春って1年に2回来るものなのかな?」と勘違いするほど、投資家の財布が暖かくなる株価の上昇が起こりました。
しかし、12月に入ってから少し冬の寒さを感じるようになってきました。どうも、投資家の心理を冷やすような出来事が立て続けに起こっています。
- アメリカの製造業役員が感じている景気(ISM製造業指数)は4ヶ月連続で悪化。
- ブラジル・アルゼンチンからアメリカに輸出される鉄鋼・アルミニウムに関税の発動を表明。
- フランスの米IT企業に対するデジタル課税導入の動きを受けて、アメリカはフランスへの関税強化を示唆。
- トランプ大統領は「2020年の大統領選後まで米中協議の合意は待ったほうが良いかも知れない」と長期化を示唆。12月15日予定の中国への関税が発動される可能性が出てきた。
この中でも、部分合意が間近と見られていた中国との貿易協議が難航している様子は大きく報じられています。
>> 対中通商合意「大統領選後も」、トランプ氏が長期戦示唆(ロイター)
恐怖指数VIXも上昇
こうした報道に投資家の心理もやや冷え込んでいるようです。
恐怖指数(VIX)という投資家がどれだけ市場に恐れを抱いているかを表す数字があります。
この1ヶ月間のVIXの変化を見ていると、11月中はずっと低位でした。投資家は株の上昇を安心して眺めていたようです。しかし、11月末から12月上旬にかけて恐怖指数はクイッと上昇して株の下落を警戒している様子が分かります。
出典:VIX(Cboe)
注意すべきニュースとそうでないニュース
12月に入ってからたくさんの出来事がありましたが、個人的には注意してアンテナを張っておくべきものは、今のところ経済指標の悪化だけだと思っています。
- 【要注意】:経済指標の悪化
- 【注意不要】:貿易や関税引き上げ(対ブラジル・アルゼンチン・フランス・中国など)
貿易や関税には特に注意を払わなくて良いと考えている理由は、トランプ政権は今まで株価が良いときだけ関税引き上げをちらつかせ、株価が下がったら関税撤廃に動いてきたからです。
株価の最高値の度に関税をチラつかせるトランプ大統領
2019年に入ってからトランプ大統領が、中国の関税引き上げをちらつかせたタイミングを見てみましょう。
- 5月1週目:中国製品への関税発動
- 8月1週目:9月から中国製品への追加関税を示唆。
- 12月1週目:中国との交渉長期化を示唆。協議進展なければ12月15日からの関税発動を示唆
米国株を投資している人なら日付を見るだけで気づくかもしれませんが、これらは全てアメリカ株が歴代最高値圏にいるときの発言です。
S&P500(米国株)とトランプ大統領の発言のタイミングを重ねてみると、その様子がとても良くわかります。
株価が高くなると、トランプ大統領の関税引き上げを材料に各国と交渉をするパターンが見られていましたが、今回もそれだと思われます。
なので、株価が下がればおそらく関税延期や撤廃に動くはずです。中国・ブラジル・アルゼンチン・フランスへの関税に関しては、長期投資家は特に注意しなくていいと思っています。
気まぐれなトランプ大統領の相場に踊らされる必要はありません。
関税よりもアメリカの経済指標に注意が必要
しかし、このトランプ政権の手法が成功するには、大前提があります。アメリカの景気が強いことです。
関税を引き上げて本当にアメリカの景気が悪化してしまった場合には、株価は回復しなくなってしまいます。だから、アメリカの景気が弱まっていないかを、経済指標を慎重に観察する必要があります。
これが、私が経済指標のニュースを重視する理由です。
先日、11月のアメリカ製造業の役員が感じている景気は4ヶ月連続で悪化したとのニュースがありました。
【19年11月ISM製造業指数】予想も前月も下回り、4ヶ月連続の景況悪化した米製造業
2019年11月アメリカの株価は絶好調でしたが、同じように景気も力強かったのでしょうか。データを見る限り、景気には株価ほどの力強さはないようです。製造業の役員に景気の強さをアンケート集計したISM製造業指数は4ヶ月連続で50を下回って、景気の減速を示しています。
ただし、現時点では製造業の低迷だけに影響がとどまっているので、まだまだアメリカの景気は強いです。
製造業の景気の悪化が深刻化しないか、製造業以外に影響が拡大しないかのほうが、貿易協議のニュースよりもずっと重要だと個人的には思っています。