直近の世の中で論調
この記事を書いている2019年5月、海外のメディアは毎日のように米中の貿易戦争の様子を伝えています。そして、その貿易戦争のエスカレートが世界各国の景気を悪化させる懸念から、景気後退(リセッション)のシグナルである逆イールド現象も深刻化し始めているという論調も出ています。
参考記事:【要警戒】米長期金利低下で、逆イールド現象のマイナス幅拡大。
実際私もそう思っていましたが、モルガン・スタンレーの見方は少し異なるようです。
モルガン・スタンレーの視点
ブルームバーグが伝えたモルガン・スタンレーのレポートによると、米中貿易戦争が過熱する2019年5月以前のデータを反映しているはずの耐久財や設備投資、購買担当者指数(PMI)に至る様々なデータが景気の減速を示していると言います。
つまり、米中貿易戦争は景気後退を加速させる働きをする可能性はあっても、そもそも米国は景気後退の景気サイクルに突入しており、仮に米中協議がまとまって貿易戦争が終結しても、景気後退する恐れがあるというのです。
米中貿易戦争が集結すれば、市場に楽観モードが戻ることを想定していた投資家もいたと思いますが、そうではないとモルガン・スタンレーは警告しています。
なるほど、一理ありますね。私は米中貿易戦争が景気減速の主要因かと思っていましたが、見誤っていたのかも知れません。何が主要因なのか、何が原因で何が結果なのかを知るのはなかなか難しいですね。
この記事をここで終わっても良いのですが、せっかくなので少し脱線して誤解しやすい「原因と結果」について考えます。
医学の世界と統計
医学の世界に統計が頻繁に使われるようになった背景として、ある村での疫病の流行があったというのを聞いたことがあります。
次々と謎の病に倒れる村にある人がやってきて、病で倒れる人に次々と病状を聴いて回ったあと、村長に「この近くの川に近づくな」と助言しました。村長は、その助言通りに指示された川の使用を禁止したところ、たちまち疫病の流行が治まったそうです。
その男は、疫病が何という名の病気なのか、川の何が原因なのかもわからなかったそうです。ただわかっていたことは、病気にかかった人が使っていた川が全て共通していたと言います。
この話は都市伝説かもしれませんが、病気と川の関係を見事に言い当てた統計の良い例です。
「原因と結果」で物事をみる悪い癖
私自身、自分でもわかっているのですが、人間は上のような原因と結果の話が大好きです。
普段過ごしている複雑すぎる現実世界の中で、「原因」と「結果」だけにスポットライトが当たって整理された話をされると、「何かわかった」ような気になるからです。
実際、一般的な私のような人間が「原因と結果」のようなわかりやすい話を求めていることを出版業界の人はよく知っているので、本屋に並んでいるビジネス書には「物事には原因があり、原因が結果を左右する」と行った趣旨の本が並んでいます。
原因と結果の話が好きなこと事態は問題ありません。問題は、あまりにその話が好きすぎて、何でも「原因」と「結果」の話に整理しようとしてしまう悪い癖がある気がします。
現実はもっと複雑なので、冒頭であげた米中貿易戦争と景気減速のように「自分が今注目していないものが真の原因である」こともあるし、「つい原因と結果を取り間違えてしまう」こともあります。
「ネガティブなツイートが多い日に株価が下がる」で見逃しているもの
「つい原因と結果を取り間違えてしまう」の例で、真っ先に思い浮かぶ「ネガティブなツイートが多い日に株価が下がる」という説があります。
かつてビックデータという言葉がまだ流行っていた頃の話ですが、当時の大手IT企業の幹部の方から「ツイートをビックデータ解析した結果、ネガティブツイートと株価は関係してることがわかった。ツイートで株価の下落の有無を予測できる。これは凄い発見だ」という熱弁を聴いたことがあります。
株をやっている人なら直ぐにわかると思いますが、これは違いますよね。
ネガティブツイートと株価が関係してることはよくわかります。でも、多くの人は株価が下がったから「うわー」だと「ぎゃー」だのツイートするわけで、ネガティブツイートが多いとわかったときには既に株価は下がっていることが多いです。
風が吹けば桶屋が儲かるようにネガティブなツイートが多いと株が下がる話もあるのかもしれませんが、経験的に多いのは株価が下がったらからネガティブツイートが増えるわけで、これは原因と結果の関係を取り違えている気がします。
脱線話のほうが長くなってしまいましたが、「米中貿易戦争の終結しても、アメリカがリセッション入りする可能性がある」というお話、「原因と結果を見抜くのって、思ったより難しいですよね」というお話の2本をお送りしました。