コンテンツへスキップ

【企業分析】コカコーラのビジネス変革と今後の取り組みの全体像

  • by

コカ・コーラを知る必読の書

今のコカコーラの会社を知るには、必読の書と言ってもいいのではないでしょうか。

2019年5月に投資家向けに公開されたINVESTOR OVERVIEW – THE COCA-COLA COMPANYというタイトルの資料です。

INVESTOR OVERVIEW – THE COCA-COLA COMPANY (May 2019)

正直いって素晴らしい資料です。コカ・コーラの周辺には良いブレーンがいるようですね。

こちらの資料では、コカ・コーラが目指す姿と直近数年間の取り組み内容を、図を豊富に使いながらわかりやすく説明しています。コカ・コーラの動向を把握するための企業分析なら、この1つの資料で十分です。

とてもわかりやすく書かれているので、投資目的でなくても純粋に1つの企業としてコカ・コーラを知りたい人にもオススメの内容になっています。

さて、上の資料を紹介することで本記事の目的の9割は達成できました。

(ここまでで今年一番の意味のある仕事をしたかもしれないと、既に満足しております。)

しかし、なかなか時間がなくて英語のスライドなど読んでいる暇はない方に向けて、「このスライドの要点」と「重要だと思われる箇所だけでも日本語の解説」を、この記事の後半でしようと思います。

スライドの要点

「コカ・コーラの会社の今の姿」を理解するという目的で、読み進んだ場合には、以下の4点がスライドの要点になります。

  • 【目指す姿】:コカ・コーラは炭酸飲料だけではない総合飲料メーカーを目指している。既に「炭酸飲料」「果汁ジュース」「スポーツ飲料」「Tea&Coffee」の4部門で世界1位、さらにエナジードリンクで2位の数量シェアを確保している。
  • 【ターゲット市場】:コカ・コーラが対象とするノンアルコール飲料市場は、他の食品市場よりも高い4.2%で成長してきた。新興国や発展途上国を中心に、今後も長期的に成長が見込める。
  • 【過去の取り組み】:2018年までの10年間に、事業の再編を行った。製品の製造・販売を行うボトリング事業をローカル企業に譲渡して現地の多様なニーズに対応し、コカ・コーラ社はブランド開発をはじめとする中核事業に集中する高収益な体制に移った。
  • 【現在の取り組み】:長期的な4-6%の売上成長目標のために現時点で行っていることは「革新的な製品の投入」「成功事例の迅速な世界展開」「顧客ニーズにそった積極的な買収」の3つ。その3つの成功例としては、メキシコでは非炭酸飲料シェア6位から1位に引き上げることに成功している。

重要スライドのななめ読みと解説

既に要点も紹介したので、本編のスライドからいくつかのページを抜粋して眺めながら、要点を拾っていきます。

目指す姿は、炭酸飲料メーカーではなく総合飲料メーカー

まず、コカ・コーラというと炭酸飲料をイメージすると思いますが、近年は買収も行って炭酸飲料以外にも力を入れています。上の図の一番左側にはコカ・コーラの製品カテゴリーの割合が出ていますが、決して炭酸ばかりではないのが見て取れます。ジュース、スポーツ飲料、お茶・コーヒーなどがあります。

図の中央をみると、世界での数量シェアが表記されているのですが、炭酸飲料以外も決して脇役ではなく、世界のシェアをきちんと獲得していることがわかります。

  • 炭酸飲料の世界シェア:1位
  • 果汁ジュース・スムージーシェア:1位
  • スポーツ飲料・飲料水シェア:1位
  • Tea & Coffeeシェア:1位
  • エナージードリンクシェア:2位

ちなみに、この高いシェアは現在行っている市場開拓方針とも密接に関係しています。コカ・コーラは市場で20%以上の高いシェアを取れる見込みがある製品に積極的にお金を使います。

それは買収についても同じです。コカ・コーラが大きな市場シェアを取れると思った分野については、既に一部の地域である程度のシェアを獲得している商品を積極的に買収して世界展開することで、世界的に高いシェアを獲得します。

例えば、エナジードリンクのモンスター、英コーヒー大手のコスタ、英スムージーブランドのイノセントなど、既に一定の評価がある製品を買収し、それを世界中に迅速に展開しています。

食品業界の中でも高成長なノンアルコール飲料

さて、そんなコカ・コーラが主戦上にしているのは、上の図の真ん中で赤く塗られた棒グラフが示すNARTDです。Non-Alcohol-Ready-to-Drinkの略で、「直ぐに飲めるノンアルコール飲料」の意味です。

「逆に、直ぐに飲めないドリンクってなんだ」言われると例に困りますが、薄めて飲むカルピスとか、茶葉やコーヒー豆などが該当します。

上の図の中央のグラフを見る限り、コカ・コーラが対象とする他の食品市場に比べて成長率が高いの特徴です。しかも、上の図の右のグラフをみると、その市場の規模は1.5兆ドルにもなる巨大市場だとわかります。

そして次のこの上のスライドは、左の円グラフが先進国の飲料消費割合、右のグラフが新興国・発展途上国の飲料消費割合を表しています。右の新興国・発展途上国のグラフには、やたらとグレーの無料の飲み物の消費割合が多いことが解ります。

経済発展とともに、右のグラフがだんだんと左の先進国の形に近づくはずなので、新興国・発展途上国ではグレーの無料の消費量がどんどん減り、長期的にはこれからお金を払って飲み物を買うようになるチャンスがあります。

つまり、コカ・コーラのターゲット市場についてまとめるとこうです。1.5兆ドルもの巨大市場でありながら、他の食品市場よりも成長率の高い4.2%で成長しており、しかも新興国や発展途上国の消費傾向をみると今後も成長する可能性が高いので、長期的に有望な市場のようです。

10年にもおよぶ事業再編を終えつつあるコカ・コーラ

すでに要旨にも書きましたが、コカ・コーラは2018年までの10年間に、事業の再編をちゃくちゃくと進めてきました。

収益性が低くかった製品の製造と販売を行うボトリング事業をローカル企業に移して現地の多様なニーズに対応できるようにする一方で、コカ・コーラ社はブランド開発をはじめとする中核事業に集中する高収益な体制を取ってきました。

その結果、上の図の右側の円グラフのように、売上規模はボトリング事業(図のBIG(ピンク色))の分が減った影響で$44.3Bから31.9Bに減ったものの、ボトリング事業の従業員は10.4万人から2.6万人にスリムになりました。

その努力の成果は、上図の左側の営業利益率に現れています。2015年から2018年にかけて、営業利益率は23.5%から30.8%へと7.3%も増えています。

現時点で進行中の取り組み

さて、過去10年で事業再編を行って、利益率の改善を行ったコカ・コーラが次に目指しているのは、市場規模の4.2%を上回る4-6%の長期的な売上成長です。

長期的な4-6%の売上成長の実現を目指して、現在行っていることは上の図の3つです。

  • 1. 革新的な製品の投入
  • 2. 成功事例やヒットした商品の迅速な世界展開
  • 3. 顧客ニーズにそった積極的な買収

このうち2番目の成功事例の迅速な世界展開については、ただやるだけなので、ここでは詳細は割愛します。

まず1つ目の革新的な商品の投入ですが、革新を始める前にまず収益性の悪い製品をやめることからはじめました。

「よく売れる2割が、全体の8割の売上をカバーしている」8:2の法則が、このコカ・コーラにも当てはまる状況でした。2018年には、売れていない製品700個以上を製造停止にする決断をしました。(上図、一番左の絵)

そして、次に製品を4つのカテゴリーにわけて、製品のチェックを行いました。カテゴリーの分け方は、自社(コカ・コーラ)の製品として有名かどうか(横軸)、他社で有名な製品があるかどうか(縦軸)です。(上図、真ん中)

優先順位こそありますが、コカ・コーラはそのどのカテゴリにも製品を投入していきました。

  • 自社も、他社もまだ知名度ない製品:今後市場が大きくなる製品カテゴリ。(グラフ右上。赤い四角)
  • 自社の製品知名度がないが、他社の製品は既に有名:他社の追随をする必要あり(グラフ右下。緑の四角)
  • 自社に有名な製品があり、他社にはライバルがいない:トクホのコーラなど。(グラフ左上。緑の四角)
  • 自社も他社にも有名な製品がある:製品リニューアルが必要な製品。例えば、ペットボトルでコーヒーを売るなど(グラフ左下。灰色四角)

この成果もあって、2018年には全体の売り上げ数量の17%が、生み出した新製品で占めるまでになりました。(上の図右グラフ)

上の図の一番左には、こうして生まれた新商品が並べられています。コーラだけでもこれだけの新商品があります。

  • トクホのコーラなどの機能性食品
  • コーヒー味のコーラ
  • ゼロキロカロリーのコーラ
  • 小さめサイズのコーラ
  • 4-6本の小瓶コーラをまとめて買えるパッケージ

特に、先進国と新興国でコーラのサイズを変えたことは大きく売上向上に繋がりました。先進国は糖質への意識が高いため、容量を40%減らしたスリム缶の販売が伸びており、この分の利益は2倍に上がっています。

一方で、新興国はみんなで集まってコーラを飲むことが多いのですが、1リットルや2リットルのペットボトルでは、次の日に炭酸が抜けてしまいます。これを飲みきりサイズの4-6本の小瓶のセットのコーラに変えたところ、売上が19%伸びています。

このように1カ国でうまく言ったことを、迅速に世界に展開していくことで、近年のコカ・コーラは売上・利益を伸ばしています。

3. 顧客ニーズにそった積極的な買収

「顧客ニーズにそった積極的な買収」と言いましたが、その方針を理解するにはコカ・コーラの市場開拓方針を理解する必要があります。

  • 1. まず理想とする製品ポートフォリオを考える。この時、今の製品群は考慮に入れないで理想形を練る。
  • 2. シェアが20%取れそうな製品に積極的に投資して、売上の拡大を狙う。
  • 3. シェアが20%未満の製品については、効果が出そうな商品に絞って投資。

このように、市場20%以上取れるような製品(顧客のニーズがマッチしそうな製品)については、優先的にお金を使います。買収が有効だと判断すれば、既にある程度シェアを取っている製品の買収も積極的に行います。

この戦略が功を奏したのは、メキシコ市場です。

上図の左の棚の絵のようにメキシコは以前から炭酸飲料は売れていましたが、その他が振るわず非炭酸飲料のシェアは6位でした。上図の右側のような幅広い製品群を理想として、まずその理想に近い製品カテゴリから改革に着手します。製品構成にハマるような製品の買収や他の国でヒットした商品の展開を実施し、売上を伸ばした後に次々と他のカテゴリにも見込みがあるものから投資を展開していきました。

その結果、メキシコの非炭酸飲料部門でシェア1位を獲得し、売上は約3倍、利益率は4.25%改善し、利益は年率10%で改善していきました。

さて、長らく見てきたコカ・コーラの取り組みについての解説は以上になります。ただ、ここで紹介したのは、本編の資料の一部です。もしより深い内容を知りたい場合には、こちらの本編を参照して下さい。


INVESTOR OVERVIEW – THE COCA-COLA COMPANY (May 2019)


本ブログからのお願い

この記事は、読者が自由に記事の金額が決められるPay What You Want方式をとっています。

「役にたった」「面白かった」など、何かしら価値を感じた場合は、YUTA'S INVESTMENT TICKETをクリックして、価値に見合った金額をお支払い下さい。

価値がないと思った場合には、お支払いは不要です。同じ記事を読み返して、新しい気づきがあった場合には、1人で何回クリックしても問題ありません。


タグ: