JPモルガン・チェースの決算が発表されました。
売上や利益が予想を超えたかどうかのなどの決算内容は他のニュース記事に任せるとして、気になったデータをひろっていきたいと思います。
ここで注目するのは、貸倒引当金です。
「あまり聞き慣れないな」という人もいるかも知れませんが、これから景気が悪くなって貸していたお金がJPモルガンに返済されない場合に備えるお金のことを言います。
JPモルガン・チェースの貸倒引当金はまだそれほど高くないように見えますが、景気後退を警戒して少しだけ引き上げられて「緩やかなリセッション」に備えているように見えます。
この記事のポイント
- JPモルガン・チェースは「緩やかなリセッション(景気後退)が中心シナリオになっている」と発言。
- 景気後退に備えて貸倒引当金は引き上げられているが規模は大きくない。
- 過去の景気後退とは違い規模は控え目で深刻な景気後退は想定していない様子。
緩やかなリセッションがメインシナリオ
JPモルガン・チェースは2022年決算を発表しました。その決算資料の中で、気になったのは次の箇所です。
企業のマクロ経済見通しは緩やかに悪化しており、緩やかなリセッションがメインシナリオとなる状況を反映して貸倒引当金を引き上げた。
どうも、JPモルガン・チェースはアメリカが緩やかな景気後退になることをメインシナリオに据えているようです。
JPモルガンの貸倒引当金
さて、口では「緩やかなリセッションがメインシナリオ」と言っていますが、JPモルガン・チェースはどれほど本気でそう思っているのでしょうか。
ポートフォリオを見れば投資家の本気度がわかるように、銀行もお金の動きを見ることでどれだけ真剣に景気後退に準備しているかを見て取れるはずです。
なので、JPモルガン・チェースの本気度を見るために、景気後退になれば急増する貸倒引当金の金額の動きを見てみましょう。
まず、2019年から2022年までのJPモルガン・チェース貸倒引当金の推移を追いかけたのがこちらです。
上のグラフからまず大まかな傾向を見てみましょう。
景気後退期に陥ったコロア不況の期間をグレーで塗りつぶしていますが、この時期には大量の貸倒引当金を積み上げて貸し倒れに備えていることがわかります。
現時点の貸倒引当金の規模はコロナ不況の時期には遠く及びませんが、景気後退が話題になっていた2019年をやや上回る程度の水準にはなっているようです。
さらに、もう一つ前の景気後退だった世界金融危機の時期とも比較してみます。
さすがに今から15年前との比較になるとJPモルガン・チェースの規模も今と違うので、貸倒引当金を収益で割った数字(上図の折れ線グラフ)を見ていくことにします。
現在の「貸倒引当金÷収益」の値は7%なのですが、これは2006年の住宅バブルが弾けた時期と同じくらいの規模になっています。
この時期はたしかに住宅価格は下がりはじめましたが、それでも景気後退まで1年程度ある時期でした。
以上、見てきたことからJPモルガンが考えていることを推測すると、恐らく以下のようになります。
- JPモルガン・チェースは貸倒引当金を増やして景気後退に備えているが、その規模はそれほど大きくない。
- 貸倒引当金の規模を見ても、コロナ不況や世界金融危機のようなハードな景気後退は想定していない(緩やかなリセッションを想定)。
- 2019年よりは悲観的だが、世界金融危機の1年前のような規模の貸倒引当金(景気後退は差し迫っていない模様)。
最近のISM製造業指数や景気先行指標などの数字からは景気後退はかなり近づいているようにも見えるのですが、銀行の目線からはまだもう少しだけ時間に余裕があるようです。