しばらく取り上げていなかった、アメリカの新規失業保険申請件数でも触れておきたいと思います。
実は毎週のようにデータは確認していました。それでも取り上げなかった理由は、あまりにも変化が見られないからです。
いえ、よく見ると前年からはわずかに増えてはいるので、緩やかな失業者の増加トレンドは続いているようには見えますが、なにせ増え方が緩やかすぎます。
この記事のポイント
- アメリカの失業者は増加には転じているが、その勢いはかなり緩やか。
- 新規失業保険申請件数も1年前に比べればわずかに増えているが、目立った増加傾向ではない。
- 2023年は破産件数が増え、求人率も低下しているが、まだ雇用市場全体はコロナ前よりも人手不足。この状況は少なくとも2023年内は解消されない。
失業者はほとんど増えていない
冒頭でも話をしましたが、アメリカの失業者はほとんど増えていない印象です。こないだの木曜日に発表された数字をみても、決して多いとは感じませんでした。
- 予想:22.5万件
- 結果:22.0万件
予想より多いとか少ないとか相対的な評価もあると思いますが、22万件という新規申請件数の絶対数をみても決して多いとは思いません。
参考までに 過去のリセッション突入時を調べてみるとどちらも35万件です。
リセッション突入時期 | 新規失業保険申請件数 |
---|---|
1990年7月(湾岸戦争) | 36万人 |
2000年3月(ITバブル崩壊) | 37万人 |
2007年12月(世界金融危機) | 34万人 |
現在 | 22万人 |
毎回同じ結論になってしまうのですが、まだまだアメリカの雇用は強いということになります。そして、リセッションはまだ近くはない模様です。
以下のグラフを見ると、1年前に比べると確かに新規失業保険申請件数は増えていますが、安定して上昇しているわけではなく7月以降は下降気味です。
雇用の弱まりを示すデータ
ここまで失業率があまり増えていないという話をしてきました。
2023年のアメリカはリセッション入りするという話はどこにいってしまったのでしょうか。
よく調べて見ると、失業者数には現れていないだけで不況の足音が近づいている様子はちゃんとみられます。
たとえば、次のグラフはS&Pグローバルが発表したアメリカでの破産件数ですが、1月から8月では去年の約2倍のペースで件数を積み上げ、すでに去年の1年間の破産件数を上回っています。
上のグラフでは今年を上回るペースで企業が破産しているのは、新型コロナが流行した2020年とリーマンショックの傷がまだ癒えていない2010年くらいしかありません。
企業の破産が増えているのに失業者が増えていない理由は、(1)比較的小規模な企業の破綻が多いからなのか、それか(2)人手不足を背景に失業してもすぐに仕事が見つかるからなのでしょう。
最近の求人率をみてみると、コロナ前に比べてまだ20%ほど高い水準が続いています。
上のグラフはJOLTSで発表されている数字なのですが、こちらのデータでは求人が最近になって急低下している形跡が見つかり、雇用はたしかに弱くなっていることを実感します。
失業者数には現れませんが、ちゃんとデータを探すとやはりアメリカの雇用は弱まっているようです。
ただ、求人率は低下していると言っても、コロナ前の水準(100)に戻るには2024年3月頃まで待たないと行けないようです。
というわけで、このまま雇用が弱まるのを待ってアメリカが景気後退になるのなら、2023年内は可能性としては低く、2024年がメインシナリオになりそうです。
そして、なんとなくなのですが、今回アメリカが景気後退になる原因は景気サイクル終盤で失業者が増えるからというありきたりな展開ではない気もしています。2022年から急激な金融引き締めをしてきたので、2023年3月の銀行の破綻のような何かしたらのショックが起こって不況に突入する可能性が頭によぎるからです。
メインシナリオではアメリカのリセッションは2024年になりそうですが、何かのショックが起こればまだ2023年内のリセッション入りもあるという心構えでいます。