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米レンタカー企業ハーツ、経営破綻した会社の財務諸表から危険シグナルを読む。

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新型コロナウイルスの影響を受けて、2020年のアメリカでは経営破綻する企業が増えてきています。

米レンタカー会社ハーツも残念ながら、経営破綻をしました。年初には15ドルあった株価は、新型コロナウイルス後にもとの水準に戻ることなく沈むことになりました。

ただし、ハーツも含め2020年4-5月に経営破綻した多くの企業は、新型コロナの影響を受けたというよりも、それ以前から経営が悪化していた場合が多いです。

ハーツの場合は2010年代に入ってから経営が少しずつ悪化していて、2010年代後半はUberやLyftなどのタクシー予約アプリを使う文化が人々に定着してレンタカーの需要が減っていた上に、2020年に新型コロナウイルスの影響を受けた形です。

ウイルス流行前から経営が悪化していた企業の破綻ならば、その兆候は財務諸表のどこに現れていたのかを見ていきます。

今後の投資する企業が第2のハーツになる恐れがあるかをどうかを見分ける参考になれば幸いです。

この記事のポイント

  • 近年のハーツの売上を見ると、直近の数年は成長しており、売上だけでは破綻の危機は察知できない。
  • 一方で、利益は10年間で5回の赤字を経験していて、良い成績とは言えない状況だった。
  • ハーツの財務諸表の中で一番明確な危険信号が出ていたのはフリーキャッシュフロー(企業が自由に使えるお金)。フリーキャッシュフローは毎年大きくマイナス幅を広げており、売上の金額を上回るほど悪化していた。
  • 毎年のキャッシュフローの資金繰りが苦しかったためか債務が膨らんでおり、自己資本比率はわずかに5%に陥っていた。

この記事では、ハーツの比較対象として健全な財務諸表を持つ企業の例としてグーグルの親会社のアルファベットを例にあげます。

本当はこのような財務諸表の比較は、同業者で比較するべきだと思うのですが、業界全体がそれほど良い環境にないためか、はっきりと健全だと断言できるレベルの企業が見当たらなかったため、他業界のアルファベットを選んでいます。

売上はまずまずも、10年で5回の赤字を経験


投資をするときには、私も含めて多くの人がまず「売上は伸びているか」「利益は伸びているか」を確認します。

ハーツの売上を見てみると、実はそこまで極めて悪化しているわけではありませんでした。むしろ最近2-3年は売上は成長していました。

正直上のグラフだけ見て「経営破綻しそうな企業に見えるか?」と聞かれたら、私は「わからない」としか言えません。

2010年代の半ばはおそらく、UberやLyftなどのタクシー予約アプリの流行でレンタカービジネスが不調に陥ったのだと思いますが、近年の売上は上昇しているので、これだけでは破綻するかどうかは判断ができません。

ただし、利益を見るとやや怪しい印象が見え隠れします。

この10年間は半分にあたる5年で赤字を経験しています。こうなると、かなり株の投資先としてはかなり警戒心が生まれます。

アルファベットとの比較

ハーツの売上と利益を見てきましたが、この10年間業績が安定していたグーグルの親会社アルファベットの売上と利益を見てみます。

先程、ハーツの売上は「極めて悪いわけではない」と言いましたが、好調だったアルファベットの売上のグラフと比較すると、グラフの形が違います。

ハーツも10年前に比べれば売上は上昇していますが山あり谷ありでややデコボコな形をしています。一方で、アルファベットはより「キレイ」な右肩上がりのグラフの形をしています。

利益をみてもアルファベットは一度も赤字に転落することなく、基本的には毎年利益を増える傾向にあります。

悪化し続けたフリーキャッシュフロー


10年間で5回の赤字だったハーツですが、フリーキャッシュフローをみるとより明確に経営破綻の危険シグナルが出ている様子が見えてきます。

フリーキャッシュフローは企業が自由に使える資金を現していて、多いほど良いのですが、ハーツのフリーキャッシュフローは10年間常に大きくマイナスで苦戦続きでした。

注目すべきはそのマイナス幅が毎年大きくなっていること、しかもそのマイナス幅は1年間の売上を超えていることです。

業績を急拡大させるベンチャー企業ならまだしも、この大幅なマイナスのキャッシュフローは異常でした。

ほとんどの投資家はこのフリーキャッシュフローの悪化具合を見て、投資対象から外すと思われます。

一方で、参考のためにアルファベットのフリーキャッシュフローを見てみると、相変わらず右肩上がりに上昇しています。

言うまでもないですが、もちろんマイナスにはなっていません。

低下し続けた自己資本比率


フリーキャッシュフローが毎年マイナスということは、毎年必要な資金が足りていないので、資金を調達しなければいけません。ハーツの場合は、債務を増やすことで運転資金を得ていたようで、その結果債務は急激に増加(自己資本比率は急激に低下)しました。

自己資本比率を見ると2018年12月時点で5%まで低下しいます。会社が集めた資金のうち株主の資本は5%、他は借金によるものという状況でした。

一方で、アルファベットは毎年多くの投資をしていますが、その投資の多くは利益を源泉しているためか、借金の割合は大きく増えていません。その証拠に自己資本比率は7割以上の高い水準をキープしています。

まとめ


今回は新型コロナウイルスの影響を受けて経営破綻した企業のハーツの財務データを見ていきました。

ハーツは売上こそ近年は成長していましたが、利益は10年間で5回の赤字を経験している点は投資家として警戒すべきものだったと感じてます。

また、最も危険な信号はフリーキャッシュフローが大幅にマイナスになっていることで、ハーツほどの規模の企業で売上以上のマイナスのフリーキャッシュフローはかなり危険な状態だったと言えます。

毎年事業を続けるためのお金は借金によってまかなっていたようで、自己資本比率は年々低下(負債の比率は上昇)していました。そこに新型コロナウイルスによるレンタカー売上の低迷を受けて、経営破綻を決めたようです。


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