エコノミストでも予想できない景気後退
過去の景気後退を調べていると、経済の専門家であるはずのエコノミストも景気後退の時期を予測できないということを良く耳にします。
私は個人的に、そういう予想は本当に当てるのが苦手なほうだと自分で知っているので、そもそも時期を予想することを自分では放棄した投資(いつ下落してもいいようにリスクを回避する投資)をしつつ、どうやったら景気後退を予測できるのかを調べているのですが、やはり正しく当てるのは想像以上に難しいようです。
アメリカは直近では2001年3月と2007年12月に景気後退を入りを経験していますが、例に漏れずこの2回の景気後退も時期を予測できなかったと言います。
半年先の景気後退を予測できなかった2000年夏
2000年8月に発表されたフィラデルフィア地区連銀の調査では、2001年第1四半期と第2四半期のGDP成長率はそれぞれ3.0%と2.7%に引き上げられ、楽観的な見方が広がっていました。
でも、実際には株価はこの8月をピークに崩れ始め、GDP成長率の予想を引き上げた2001年第1四半期に景気後退入りをしています。
この図は、よく見ると景気後退の難しさをちゃんと物語っています。エコノミストが予想した2000年8月の時点では2000年第2四半期の+7.5%の景気が絶好調のデータまでしか手元になかったはずです。つまり、以下のようなデータしかない状態だったのです。
上のグラフをみるとわかるのですが、直前に7.5%もGDPが成長していて、この半年後にマイナス成長になることを当てろと言うほうが、難しすぎます。
リーマンショック直前では「今後5四半期でマイナス成長が起きないと予想」
また、サブプライムローン危機から景気後退に入っている最中の2008年5月のフィラデルフィア地区連銀調査では、ようやく景気が落ち着いてきたことから「今後5四半期ではマイナス成長が起きない」との調査結果が出ていました。
でも、その調査からわずか数ヶ月の間にリーマンショックが発生し、その後2008年第4四半期には-8.4%の大きなマイナス成長を経験することなります。
前年から景気後退を予想できた確率はわずか数%
うむ。やはり景気後退の時期を予想するのは、かなり難しいようです。
中には、「どれだけ景気後退を予測するのが難しいか」を研究している論文すらあるほどです。そんなテーマに全力を出すより、データから景気後退の予兆を見つけるために時間を費やしたほうがよっぽど有意義なんでは?と思ってしまいますが、ちょっと覗くとかなり大真面目に研究していて面を喰らってしまいました。
How Well Do Economists Forecast Recessions?(IMF, Mar.2018)
上のIMFの論文では、エコノミストのGDP成長率予測のデータを使って、ちゃんとエコノミストは景気後退を予測できたのかを検証しているのですが、結論を一言でいうと「景気後退の時期も規模も予測するのは難しいです」といっています。
63カ国の22年間分で景気後退が発生した年は全153回あったのですが、前の年の4月時点でエコノミストの事前予想で景気後退を正しく予測ができていたのはわずか5回(約3%)。そして、景気後退前年の10月の時点でも14回(9%)でした。
景気後退する予想 | 景気後退しない予想 | 正答率 | |
---|---|---|---|
前年4月予想 | 148 | 5 | 3% |
前年10月予想 | 139 | 14 | 9% |
そしてさすがに、景気後退する年になるとこの確率は50%以上に急上昇するようです。以下の表はその様子を現しています。
景気後退する予想 | 景気後退しない予想 | 正答率 | |
---|---|---|---|
景気後退する年の4月予想 | 69 | 84 | 55% |
景気後退する年の10月予想 | 35 | 118 | 77% |
まとめと学び
さて、「景気後退なんて予想できないね」で終わってしまうと、この記事を読んで一体何の学びがあったのかわからなくなってしまうので、最後にもう少しだけ学びを掘り下げて終わりたいと思います。
- 翌年のGDP成長率予想が大きくプラスだからといって、景気後退をしないわけではない。予想が外れてマイナス成長した年は過去に山ほどある。
- 逆に、経済成長率を連続して何回も引き下げてきた場合には注意が必要。上の表を見ても、景気後退が近づくほど、予想数も増えていて、後から振り返ったときに既に景気後退している場合もある。