ケニアで気球を使ったインターネット環境、初の商用実験へ
Googleとその親会社のAlphabetはたくさんの近未来的なプロジェクトを進めていますが、その一つにLoonと呼ばれるものがあります。
Loonはまだインターネット回線が行き届いていない地域に、インターネット環境を提供するためのプロジェクトです。いくつかの気球を空に打ち上げて、空から地上の広い範囲に4G(LTE)のインターネット環境を提供するGoogleの試みです。
2019年7月にもケニアの航空局はLoonの気球を上げる許可を与えると見られており、数週間以内のうちにGoogleとケニアの通信大手Telkom Kenyaが、Loonの初の商用実験に踏み切ると見られています。
ここでは、GoogleがLoonを使って何をしようとしているのか、Loonはどういう仕組みなのかに触れたいと思います。
2018年時点の世界のインターネット人口
突然ですが、ここで問題です。みなさんは、2018年時点で世界中の人口の何割がインターネットを使っているか、ご存知でしょうか。
先進国では9割以上は使っていそうですが、発展途上国も合わせると7割くらいでしょうか?
それでは、世界中のインターネットに関する利用状況とトレンドをまとめたInternet Trendsという資料があるので、そこからデータを拾って見てみましょう。
上記資料のp9に答えが載っています。以下のページです。
正解は51%です。意外に少ないですね。人口にして38億人の人々がインターネットにアクセスしているとことです。ちなみに2009年はわずか24%で、そこから10年で初めて世界人口の過半数を超えたばかりという状況のようです。
世界にはまだまだインターネットを使っていない人々がこんなにもいるのです。
ちなみに余談ですが、Internet Trendsという資料は、IT業界の人間であれば、毎年必読の書だと勝手に思っています。これを読まずしてインターネットの今を語るのは、法律を知らずに法廷に出向く弁護士くらい怪しいです。
Googleがインターネット人口を増やす理由
さて、ではなぜGoogleがインターネット人口を増やす必要があるのでしょうか。その理由はGoogleの収益源にあります。
ご存知の通り、GoogleはGoogle検索を世界中の人に使ってもらって、結果と同時に表示する広告をメインに売上を上げている企業です。この検索エンジンはアメリカや日本だけでなく、世界各国で圧倒的なシェアを誇っています。
2019年6月時点の検索エンジンの世界シェアはなんと約93%にも上り、現在のインターネットユーザのほぼすべての人がGoogle検索に頼っていることがわかります。
全デバイス検索エンジンシェア | bing | Yahoo! | Baidu | |
---|---|---|---|---|
19年6月 | 92.62 | 2.51 | 1.78 | 1.11 |
出典:statcounter Search Engine Market Worldwide
つまり、現時点のシェアを維持しつつ世界中の全人口にインターネット環境を提供できれば、世界の人口の9割をGoogle検索ユーザにできるわけです。広告ビジネスの価値は、広告を届けられる人口に比例して大きくなるので、Googleとしては全世界にインターネット環境を提供したい強い理由があります。
Loonで目指す全ての人がインターネットを使える世界
しかし、世界中の人々にインターネット環境を提供するのは、簡単ではありません。都市部では基地局を増やせばいいですが、郊外や山岳地帯、無数の小さな島を持つ島国では、基地局を設置するコストが非常に高くなってしまうからです。
そこで、Googleが考えたのが、空から広範囲に一気にインターネットの電波を提供することです。Googleはこれを気球を使って実現しようと計画し、2019年7月にケニアの当局から許可を得た後、はじめての商用実験を実施しようとしてます。
以下はLoonの公式サイトに上がっている、気球を使ったインターネット環境を構築する仕組みを説明した動画です。気球は飛行機の高度の遥か上、雲すら無い成層圏まで上げて、幅広く人々にネット環境を提供する様子が、アニメーションで描かれています。
字幕で日本語も選択できるので、お好みの言語で視聴してください。
ライバルは人工衛星
さて、このGoogleのLoonですが、じつは強力なライバルがいます。AmazonのCEOジェフ・ベゾス率いるブルーオリジンと、テスラのCEOイーロン・マスク率いるSpaceXです。
このライバルの2社は、ロケットなどを作っている宇宙開発企業です。そして、世界中にインターネット環境を提供するために、空にネットワークを構築するアイディアまではGoogleと同じですが、気球ではなく人工衛星で実現しようとしています。
参考記事:アマゾン、3,000個の人工衛星で衛星インターネット環境を構築へ(NEWS CARAVAN)
人工衛星を使ったネットワーク環境構築よりも早く実現できる点で気球のほうが有利ではあるものの、人工衛星は一度ネットワークを構築すれば気球の比ではない広い地上のエリアをカバーできるため、このLoonのプロジェクトはゆくゆく人工衛星の取り組みの波に飲み込まれてしまうかも知れません。
「Loon危うし」といった感じですが、方法は違えどGoogleの当初の目的の世界中の人々のネット環境の提供は実現できるなら、Googleとしては最低限の目的が果たせるので、それも結果オーライだと思われます。
今回はGoogleにフォーカスして記事を書きましたが、インターネットアクセス人口の拡大は全ハイテク企業が叶えたい願いでもあるわけです。