IBMのCEOを努めていたジニー・ロメッティが退任を発表しました。
本当に、お疲れさまでした。
今までは、たとえ世界にインパクトを与えたGoogle創業者のラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンが退くことになっても記事を書いてきませんでしたが、今回はIBMのジニーCEO退任について書きたいと思います。
ジニーは一度もあったこともない人ですが、大変な苦労が透けて見える経歴だったので、今日この日を逃すと二度とこの人の記事を書く機会がないだろうと思い記事しました。
読者の方には、普段とかなりテイストが違う記事ですみませんが、時間があればお付き合いください。
ジニーの経歴
さて、ジニーの『大変な苦労が透けて見える経歴』をとんでもなく簡単に書くと、次の3点になります。
- 1981年にGMからIBMに転職後、40年間IBMに在籍
- 2012年に当時のパルミザーノCEOの後任として、IBMのCEOに就任
- 2020年1月30日CEO退任を発表。年末まで会長職を勤めて退職
これだけでジニーの苦労が理解できる人は、「投資対象としてのIBMをかなり詳しく知っている人」かつ「不況時の外資系企業の苦労を知っている人」だと思います。
まず、上の3つ経歴とIBMの歴史から透けて見えるのは、こちらです。
- 90年代前半、「アメリカ産業市場、最大の赤字」と呼ばれて倒産が叫ばれたIBMでリストラを回避し、転職もせず在籍し続けた。
- 2012年、前CEOのクラウド参入への判断が遅く、既に売上が減速し始めた状態でIBMのCEOに就任。
- CEO就任後の迅速にクラウドに注力するも、アマゾン・マイクロソフトに大差をつけられ、IBMは10年間の低迷期に入る。
- クラウド低迷により、前CEOが公約した「2015年に一株利益20ドル」の目標は未達になることをジニーが2014年に発表。以降、2013年の株価最高値は未だ超えられず。
- ウォーレン・バフェットもIBM株を手放すと表明。完全にIBM株を手放した2018年には、2013年最高値から45%下落。
- 2019年の四半期決算から、IBMの売上が底打ちをし始める。低迷していたクラウドがIBMの成長を押し上げる兆しが見えたタイミングでCEO退任を発表。
ジニーの苦労、伝わりますでしょうか。
ジニー個人の力ではどうしようもない巡り合わせが、この人を大きく左右しているように思います。1つ目は1990年代のIBMの大赤字、2つ目は前任CEOのクラウド参入の出遅れです。
90年代のIBM大赤字
90年代の倒産も叫ばれていたIBMの大赤字の時代をくぐり抜けたという時点で、たぶんジニーは体力も精神力もタフな人です。私も外資の企業で、リーマン・ショック後に採算が取れなくなった部門の同僚が次々いなくなる経験したことがありますが、その様子はかなりドライでした。
残ったら残ったで、その人間の負担は大変重いです。そのような経験をしても、IBMに居続けるところをみると、相当な忍耐力がある人なのでしょう。
クラウドで出遅れた中でのCEO就任
そして、ジニーが不運なのはCEOのバトンを渡された時点で、既にIBMはかなり「詰んでいた」状態にあったことです。
詰み将棋で既にどうやっても勝てない状態ですね。クラウドコンピュータの業界トップのアマゾンは2006年からサービスを公開して市場に存在感を表し、IBMは大型マシンの売上の低迷が始まって事業売却を進めていた時期でした。
ジニーがCEO就任後は、結局クラウドでアマゾン・マイクロソフト・グーグルに勝てず、CEOとして実績を残せずにいました。どういう状況であれ、就任から8年かかっても立て直せないのはさずがにCEOとしてまずいと思います。
しかし、本当に最近の決算になってクラウドがIBM全社の売上を押し上げる兆候が見えてきたところでした。
【2019年4Q決算】IBM、10年続いた長期低迷に底打ちの兆し
IBMの決算は久々に収益・利益もアナリスト予想を超えてきました。IBMが長年で遅れていたクラウドで成長が加速しているのは良い兆候です。10年続いたIBMの売上の低迷に底打ちの兆しを感じます。
90年代の苦境は個人では耐えるしかできなかったジニーが、今後はCEOになって自分主導で時間をかけながらも、なんとかIBMのクラウドを立て直しはじめた。そんな兆しが見えた中での退任発表でした。
私は長年、不思議でした。「なぜIBMの株はこんなに低迷しているのに、ジニーをCEOから下ろす動きがないんだろう」と。今となっては「低迷期をジニーに担ってもらって、復調したら次期CEOにバトンタッチ」というシナリオがあったのかなと勘ぐってしまいます。
退任発表でIBM株は5%上昇
ジニーのCEO退任の発表を受けて、IBM株は時間外で約5%上昇しているようです。
ドミノ・ピザで2010年から2018年までの就任中に株価を20倍にしたパトリック・ドイルCEOが退任を発表したときには、ドミノ・ピザの株主は別れを惜しんで株価が5%下落したとニュースになりました。しかし、反対にジニーの退任は市場から歓迎をされたようです。
二人とも5%の株価変動ですが、結果は真逆でした。
この辺は、さすが資本主義社会です。
株を上げるCEOの退任は売り、株を下げたCEOの退任は買いで反応する。残酷なまでにシンプルな世界です。
ジニーも、人知れずポロッと悔し涙を流したかもしれませんね。ただし、気丈な人なので人前では見せないのでしょうが。
私も最近は投資をする時や企業を見るときには、できる限り余計な感情をいれずに、企業を見るようにしているドライなところがあります。ただ、このタイミングでのジニー退任の知らせを聞いたときには、さすがに同情を禁じえませんでした。
冒頭にもお伝えしましたが、本当にお疲れさまでした。