ドイツを不振に追い込んだ米中貿易戦争
先進国の中でドイツは最も危うい状態にあるかも知れません。2019年第2四半期のGDP成長率は再びマイナスに転落しました。
原因を紐解くとドイツの自動車産業の輸出減少をはじめ、製造業の不振が2018年夏から見られています。程度は違えど、アメリカの製造業の経済指標(ISM製造業指数)の変調も2018年夏からです。
その夏に何があったかと遡ると、2018年7月にアメリカと中国は互いに第一弾の制裁関税を発動しています。
「ドイツ製造業の不振のはじまり」「アメリカ製造業の不振のはじまり」「米中貿易戦争のはじまり」この3つのタイミングが同じなのは偶然でしょうか。そうは思えません。
EU経済の3割を占めるドイツ経済の不振は、EUの中央銀行ECBの9月12日会合での政策判断にも影響与えそうです。そして、ECBの判断から1週間後に予定されているアメリカ金融政策決定会合FOMCにも、なにかしらの影響を与えるかも知れません。
2019年第2四半期はマイナス成長
2019年第2四半期のGDP速報値が発表されましたが、前期比マイナス0.1%で、再びマイナス成長に陥りました。貿易戦争の影響を受けて中国を消費者の需要が弱まり、輸出が大きく減少しているようです。
2018年第3四半期からこの1年間の落ち込み方が激しいです。2019年第1四半期を除いて、プラス成長がありません。
輸出の不振が原因
ドイツの統計庁によれば、今期のマイナス0.1%の成長率の中でも、個人消費と政府支出はプラスだったようです。それにも関わらずマイナス成長に陥った原因は、輸出の大幅な減少です。
昨年後半から、ドイツでは主力の自動車産業を海外への輸出の不振が続いています。2019年上半期のドイツ産自動車の輸出は前年比-15%で減少しています。
上半期の自動車産業、国内市場は堅調も輸出・生産は落ち込み(ジェトロ)
この輸出の減少の主な原因は中国です。2018年から中国の需要の弱さが目立ち、さらに2018年夏からは米中貿易戦争の影響もあって、中国消費者の自動車需要が減っていると見られています。
中国での自動車販売市場でシェアトップの独フォルクスワーゲンのディースCEOは、2019年年初から「米中貿易摩擦の影響で中国消費者の需要が減速していることは『大きな懸念』」との認識を示していました。
貿易摩擦は大きな懸念、米中通商協議で合意を期待=独VWのCEO(ロイター)
中国自動車販売 – 2018年年間ランキング[ブランド別](出典:兵庫三菱自動車販売)
順位 | ブランド | 市場シェア |
---|---|---|
1 | Volkswagen(ドイツ) | 13.10% |
2 | ホンダ(日本) | 6.40% |
3 | Geely(中国) | 5.90% |
4 | トヨタ(日本) | 5.30% |
5 | 日産(日本) | 5.00% |
こうした動きは、フォルクスワーゲンだけにとどまりません。ドイツの自動車企業のBMWやダイムラーもまた同じ悩みを抱えています。
このようなドイツの主要産業の自動車業界の苦戦を受けて、製造業の景気を反映するドイツ鉱工業生産指数は右肩下がりで、歯止めがかかっていません。
このグラフに着目すると2018年夏から大きな下落が見られます。程度は違えど、アメリカのISM製造業指数でも2018年夏から下落が見られます。
この2018年7月といえば、貿易戦争で米中が互いに第一弾の制裁関税を発動したタイミングです。米中貿易戦争が1年かけてドイツの製造業を低迷させ、ドイツをマイナス成長に追いやった可能性は十分考えられます。
9月ECBの緩和策発動はFOMCに影響か
さて、こうなると気になるのはEUの中央銀行がどのような政策の判断をするかです。7月のECBの会合時には、次回9月にも何かしらの緩和策の発動させる予告をしていましたが、もはやそれは既定路線といえる状況です。
2019年9月にはついに欧州も。世界の中央銀行は続々と緩和策の実施へ。
ECBは9月12日、そしてアメリカの金融政策会合FOMCは9月18-19日です。ECBの決定が、アメリカ中央銀行FRBに何かしら影響を与えることは間違いなさそうです。