アメリカの中央銀行はコロナの感染が広がる前の2019年から金融緩和を続けてきましたが、ついに舵を切って方向転換をはじめたようです。
2020年のコロナの不況で企業の資金繰りを助けるために買い取っていた社債の売却を始めると6月2日に発表しました。
この発表を投資家がどれだけ重く見るかは、今晩以降の市場の動きをしばらく見ないとわかりませんが、コロナ不況を乗り越えるため拡大した金融政策をFRBがいよいよ縮小させ始めたことには意味がありそうです。
今まで金融緩和であらゆる資産の価格が上昇を続けていましたが、もしもFRBがこれから金融緩和を縮小させるなら今後はそうは行かなそうです。
この記事のポイント
- FRBは2020年に購入した企業の社債の売却を発表した。社債の購入自体は2020年末に既に止まっていたが、今回はその売却が発表された。
- 2020年にFRBが購入した社債は約140億ドル(約1.5兆円)で、米国企業の社債を保有する投資家には悪いインパクトがあるかもしれないが、2020年にFRBが金融緩和で約4兆ドル(440兆円)資産を増やしたことに比べると、株などの他の市場に与える影響はかなり限定的。
- 今回の発表は、今まであらゆる資産の価格を押し上げていた金融緩和をFRBが終わらせ始めたことに意味がありそう。
社債の売却を発表したFRB
6月2日にFRBはとても短い声明文で、2020年に購入した社債の売却を発表しました。
この社債はコロナの不況の中で企業の資金繰りを助けるために購入が始まったもので、社債発行が落ち着いた2021年12月には既にFRBによる社債購入は止められていました。
5月27時点のFRB資産を確認すると、購入した社債は約140億ドル(約1.5兆円)あるように見えるのですが、これが今回の発表されたFRBの社債の売却対象になりそうです。
声明文では市場への影響が最小限になるように売却を進めると言いますが、今まで金融緩和を続けて市場に大量のお金を提供していたFRBが、これからは市場からお金を回収する立場に変わることになります。
市場へのインパクトはどれほどか
もしも140億ドルの資産がこれから徐々に売却されるとして、どれくらいのインパクトがあるのでしょうか。
ざっと見たところでは、今回の売却は社債市場には影響があるかもしれませんが、それ自体が米国株などの他の市場へ与える影響はあまり大きくないように見えます。
なぜなら、2020年のFRBが行った金融緩和はかなり大規模で、今回の社債の売却はその極めて小さな部分にも見えるからです。
2020年の金融緩和でFRBの資産は、下図のように約4兆ドル(440兆円)増えましたが、今回の売却対象は約140億ドルで1%にも満たないからです。
しかし、市場が「今回の社債売却は、これから始まるFRBの金融緩和縮小の始まりにすぎない」と見るなら、米国株の影響も大きくなるかもしれません。
今後は少しだけ警戒して、市場を見てみたいと思います。
さいごに
この記事では、コロナの前から金融緩和を進めて市場に資金を提供していたFRBが、ついに金融緩和を縮小する方向に舵を切り始めたという話をしました。
売却する社債の規模は大規模に実施した金融緩和全体に比べると小さいですが、あらゆる資産の価格を押し上げた金融緩和の終わりが始まった点には意味があると思います。
少し疑問なのは、「なぜ、このタイミングで発表したのだろう」という点です。
通常ならば、2週間後の6月16日に予定されている金融政策を決める会議(FOMC)の後に、正式に発表すればいい話です。
この数ヶ月の間、FRBは上昇し続けるアメリカのインフレ率を一時的な現象と見逃して金融緩和を続けてきましたが、「あれ。ひょっとしてインフレや景気の過熱が見逃せなくなって、少し慌てているのかな」という印象すら受けます。
FRB内でわずかに広がりを見せる緩和縮小開始の議論
今の米国株は、コロナの不況を乗り越えるために打ち出した大規模な金融緩和のおかげで高い値がついています。しかし、少しずつではありますが、この金融緩和の規模を縮小させる時期についての話が多くなってきた気がします。