8月27日のシンポジウム(米国のジャクソンホールで行われた会議)では、アメリカの中央銀行FRBのトップのパウエル議長が講演を行いました。
既に発言内容を知っている人も多いと思いますが、この講演ではFRBが毎月買っている債権の規模縮小(テーパリング)の件についてパウエル議長が発言したので、この記事で触れていきます。
パウエル議長の主なメッセージは「テーパリングは年内にやりますよ。でも、政策金利はまだ引き上げないので安心してください」というものでした。
この記事のポイント
- パウエル議長は、テーパリングを2021年内にも始められるとの見通しを発言。
- ただし、政策金利の引き上げはまだ慎重に判断する姿勢を強調した。
- この講演を受けて投資家は安心したのか株価は上昇した。米国債が急に売られれば米国株にも悪影響が出たはずだが、国債市場も安定していた。
2021年内のテーパリングを示唆
米国株は大規模な金融緩和に支えられて、2021年は何度も最高値を更新していますが、その金融緩和の柱の一つの債権購入の規模が縮小(テーパリング)がそろそろ始まろうとしています。
最近ではFRBの主要メンバーが次々と「テーパリングが近い」と語っていたので、世の中の投資家も身構えていましたが、ジャクソンホールの会議でパウエル議長の口から初めて、年内にもテーパリングを開始する考えがあることを明かしました。
パウエル議長の発言の概要
- テーパリングを始めるのに十分なほどインフレは回復した、雇用もまもなく十分な回復になると想定。
- 2021年内のテーパリングはあり得るとの考え方を示した。
- 一方で、政策金利を引き上げる「利上げ*」はまだ先の話で、差し迫っていない。(*利上げは株価にも経済にも悪影響が大きい)
- 「一過性」のはずのインフレを抑えるために、利上げを急いで雇用の回復が失われることがないように慎重に利上げを判断する。
パウエル議長の発言で目立ったものは、だいたい上のとおりです。
テーパリングが近いことは投資家の予想通り、そして株価への悪い影響も大きい利上げについては「まだ差し迫っていない」と言って投資家を安心させました。
パウエル議長の講演後の市場はとても好感触
市場はとても冷静にパウエル議長の話を受け止めたようです。
米国株の動きを見てても、主な株式指数はすべて上昇しています。また、恐怖指数(VIX)は無事に下がって、投資家はパウエル議長の話に安心したようすも見られます。
金融緩和の縮小が始まるなら、今後は一層注意を払うべきものだと私が思っている長期金利(10年米国債の利回り)もパウエル議長の発言の後に下がって、株に優しい環境になっています。
もしも、10年国債利回りが急上昇してしまったら(大量に国債が売られるような動揺が市場に見られていたら)、米国株も大きく売られていたはずですが、全くその様子はありませんでした。
参考記事:米国債と米国株の関係については、こちらの記事を参照。(米国債が売られれば米国株も売られるので、国債の動きに注意すべしという内容が書いてあります)
結局は米国株が国債よりも割安かどうか
2021年で米国株の投資家の話題にのぼっているのは「(1)アメリカの中央銀行FRBがいつから国債の購入を縮小するのか」、「(2)FRBいつから政策金利を引き上げるのか」、「(3)インフレ率がどこまで上昇するのか」などです。しかし、少し考えてみると、使っている言葉は違うのですが、実はこれらはすべて「米国株が国債よりも割高かどうか」を心配していることに気がつきます。
まだテーパリングは始まってもいないので、長期金利(10年米国債利回り)はこれからも注意して見ていく必要はありますが、ひとまずパウエル議長は金融政策の正常化にむけて良いスタートを切ったようです。
さいごに
ちなみに、「テーパリングが始まったら金融緩和で支えられていた米国株が下落する」という声も一部では聞こえますが、そんなに簡単にすぐに下落に転じるものなのかどうかは私にはわかりません。
前回2013年のテーパリング時にはしばらく株価は持ちこたえたことから、恐らく今回も株価は大きく下げない可能性も十分にあると思います。
重要なのは、どんな金融政策の変更があったとしても、10年米国債利回り(長期金利)が最後には鍵を握ると思っているので、これからも長期金利の観察を続けていきたいと思います。