米国の中央銀行FRBは、予定されていた3月17-18日の会議を待たずに手を打ってきました。
金利をゼロに引き下げ、今後数ヶ月で7,000億ドルの国債と不動産関連の債権を買うと発表しています。
この発表のあと、米国株は大きく売られて、資金が安全資産の国債に一斉に資金が逃げる動きが出ています。
「景気を支えるために大きく利下げしたのに、なんで株が売られるの?」と思うかも知れません。
確かに、利下げしたら株にはプラスに働きますが、リーマンショックやITバブル崩壊のような大規模なときしかFRBは緊急利下げをしないため、緊急利下げを今月だけで2回も発動した今の米国は相当マズイ状況にあると多くの投資家は考えたようです。
この記事のポイント
- 米国の政策金利を1%引き下げた。これで金利は過去最低の0-0.25%(ゼロ金利)になった。
- 今後数ヶ月で7000億ドルの債権購入も決まった。メディアは量的緩和の再開を伝えている。
- FRBの対応は、普通なら嬉しいニュースのはず。でも、市場は「大規模な緊急対応が必要なほど、米国経済はマズイ状況に陥っている」と受け止めている。
- FRBの発表後、株は大きく売られ、国債は大きく買われる展開になった。
実は、このブログでは前日の記事で「3月18日に行われる会議(FOMC)でゼロ金利になって、FRBの債権額が増える」と予想していました。
>>【参考記事】FOMCと新型コロナウイルスで、今週も荒れた相場へ。
ただ、予想外だったのは発表時期です。
FOMCの開催を2日前に控えたタイミングで、わずか2日分の時間を惜しんで利下げと債権購入規模の拡大をしてきたところに、今の米国の景気が切羽詰まっている感じがにじみます。
急激なペースでゼロ金利と量的緩和再開へ
想定よりもずっと早いペースでの利下げでした。今月だけでも緊急利下げを2回し、合計で1.5%もの金利引き下げをしています。
「それってどれだけすごいことなの?」とイメージはわかない人もいるかも知れないので、少し補足します。
急激な金利の引き下げ幅
まず、普通なら政策金利は約1-2ヶ月毎に行われる会議(FOMC)で0.25%ずつ引き下げます。なので、今月だけで1.5%(FOMC6回分)の引き下げをするというは、本当なら6-9ヶ月かけて毎回のFOMCで利下げするはずだった予定を”すっ飛ばしている”ことになります。
それだけ米国の経済の状況が急変していることを意味します。
危機的状況でしか行わない緊急利下げ
また、予定されているFOMCの日程以外で緊急利下げをすること事態が、あまり普段は見られないことですが、今月は2回も緊急利下げをしています。
過去を振り返ると、歴史に名が残るイベントが起こっている時にだけ緊急利下げしていることがわかります。
緊急利下げ | 利下げ幅 | 理由 |
---|---|---|
2020年3月15日 | 1.00% | 新型コロナウイルス |
2020年3月3日 | 0.50% | 新型コロナウイルス |
2008年10月8日 | 0.50% | リーマンショック後 |
2008年1月22日 | 0.75% | サブプライムローン後の景気後退危機 |
2007年8月17日 | 0.50% | サブプライムローン問題対応 |
2001年9月17日 | 0.50% | 9.11テロ後の緊急対応 |
2001年4月18日 | 0.50% | ITバブル崩壊後の景気低迷 |
2001年1月3日 | 0.50% | ITバブル崩壊 |
緊急利下げを同じ月に2回も行っているのは、過去にもあまり例がありません。また、下げ幅の1.0%も過去と比べて規模が大きいです。
緊急利下げを見ても、今の米国がマズイ状況に陥っているかも知れないと感じます。
米政府の景気支援策よりも早く量的緩和したかったFRB
FOMCが2日前に控えている今のタイミングで、なぜたった2日の時間を惜しんでFRBは緊急利下げをしたのでしょうか。
これは私の推測ですが、たぶん米国政府が大規模な経済支援策を発表する前に、FRBは利下げと量的緩和を発表したかったのかなと思っています。
この順番はとても大事です。もしも、先に政府が大規模な支援策を発表してしまったら、次のような仕組みで長期国債が売られて、FRB引き下げたかった長期金利が上がっていたはずです。
FRBが避けたかった状況
- 米国政府が大規模な政策を発表して、大量の国債が発行される。
- 国債が売れ残って国債の価格が下落する(特に、長期国債の利回りが上昇)。
- 長期国債の利回りが上昇すると、住宅ローンや企業の債務に悪影響が出る。
この状況を回避するために、FRBは米国政府よりも先に、国債を買い支える宣言をしたかったので、利下げと量的緩和を急いで発表したのだと思っています。
乱高下する米国株と国債
さて、長いお話をしてきましたが、結局、市場がどう動いてるのかが気になるところです。
FRBの発表直後の様子ですが、株は先物市場で上限いっぱいまで大幅に売られて、国債は大量に買われて利回りが急低下しています。
以下のグラフは、ダウの先物市場の価格ですが、約5%下落して取引が中断しています。
米国の国債は大きく買われて、利回りが急低下しています。
今のところ「株の下落を国債でカバーする」王道の作戦は有効なようです。
次のターニングポイントは米政府の支援策発表
ただ、この動きがずっと続くかどうかはわかりません。たぶん、次のターニングポイントは米国政府の経済支援策を発表する時です。
米国の政策が予想以上に大規模なものになると、今度は株が上がって、国債が売られる動きも出る恐れがあります。
乱高下はまだまだ続きそうです。今のところ市場の乱高下を決める大きな要因は以下の3つになっていると感じています。
この記事のポイント
- 新型コロナウイルス感染者数:急増すると米国株下落、国債買われる。
- FRBの債権購入額:規模が大きくなると、国債買われる。
- 政府の経済支援策:規模が大きくなると米国株上昇、国債売られる。
変化の激しい毎日ですが、注意深く様子を見ていきたいと思います。