9月12日にEUの中央銀行ECBは金融政策を決める会合を開きます。
おそらく金利引き下げか、国債を大量に購入する量的緩和のどちらかをすることになると見られています。そしてロイターの報道によると、量的緩和をせずに、金利引き下げの方向に動いているようです。
しかも、金利引下げによる負の効果を打ち消すために、日銀が採用している長期と短期の2つの金利目標を導入する可能性も高いと言います。ちょうど今、日銀のこの政策が限界を迎えているのではないかと言われている中で、ECBが採用しようとしているのは興味深いです。
ECB、日銀の金融政策を検討
ロイターが伝えている事情に詳しい関係者の話によると、ECBは量的緩和はせずに、金利引下げに向けて動いているようです。また、金利引き下げに加えて、今後の金利予想(フォワードガイダンス)や日銀が実施している長短2つの金利目標を設定なども合わせて検討していると言います。
ECB、包括的刺激策決定の公算 利下げや金利階層化など=関係筋(ロイター)
しかも上の記事では、”関係筋は、利下げは金利階層化(長短金利目標の導入)とセットで決定される公算が大きいと指摘”とあります。これはちょっと驚きです。
たしかに前回のECBの会合では、日銀が取り組んでいる長短金利目標の導入も検討するとは言っていましたが、その可能性は低いとされていました。先に導入した日銀でも、苦労している政策だからです。
長短金利コントロールの難しさは長期金利の維持
数日までにこのブログで紹介したように、日銀がとっている政策は今まさに正念場を迎えています。
日銀の挑戦、長期金利の低下を中央銀行が抑え込む手段はあるのか。
今の日銀は長期金利として、10年国債の金利をゼロにすることを目標としてます。ぴったりゼロではなく、プラス・マイナス0.2%は誤差と見る暗黙の了解があります。
しかし2019年8月は10年国債が買われた結果、目標の下限の0.2%を大きく超えるマイナス0.29%にまで下がる局面があり、中央銀行が長期金利をコントロールするのには限界があるのでは、と囁かれています。
日銀は紙幣を刷って国債を買うことで10年国債金利を引き下げることは得意ですが、逆に下がりすぎてしまった金利を引き上げる策は限られていて不得意と見られているからです。
どうやって長期金利を目標値まで引き上げるかに日銀が苦労している政策に、ECBが後を追って実施するのはなんとも不思議な判断に
見えます。
ECBが国債購入に消極的な理由
ここからは推測ですが、ECBも日銀の政策が良いと思っているのではなく、消去法で日銀の政策を追随せざるを得ないのだと思われます。
ECBの頭の中はこうです。
- 量的緩和はまだしたくない。また後々の手段としてとっておきたい、かつリスクが高い政策だから。
- 量的緩和か利下げなら、消去法で利下げを選択せざるを得ない。
- でも既にマイナス金利は副作用がある。それを抑え込もうとしている日銀の策を真似よう。
※マイナス金利の副作用についてはこちらを参照:
日銀の挑戦、長期金利の低下を中央銀行が抑え込む手段はあるのか。
一番最初に来るのは、量的緩和をまだしたくないという動機です。今後、もっと景気が悪くなった時に打つ手段として残しておきたいという思いがあるようです。
ECB、QE再開を正当化できるほど景気弱くない-オランダ中銀総裁
ECBミュラー氏:債券購入再開は経済状況に不釣り合い-懐疑派増加(ブルームバーグ)
また、量的緩和で買った国債はいつかは処分しなければいけません。国債を処分するときには、国債利回りがあがることが予想されますが、ヨーロッパは2009年のギリシャから始まったユーロ危機があったように、日本やアメリカに比べて簡単に利回りが上がりやすい国がいくつもあります。
急激な利回りの上昇は経済に混乱を引き起こします。ユーロ危機を経験しているECBは、そのリスクを上げる量的緩和に消極的になるのでしょう。
なので、ECBは日銀の策を追随したいわけではなく、量的緩和は実施したくないという消去法で、マイナス金利の深堀りと日銀の政策を検討しているように見えます。
もちろん、12日のECBの会合で議論に議論を重ねた結果、量的緩和が発動されることもまだ可能性としてはあります。しかし、ECBの中にも量的緩和に慎重論を唱える人が増えているように思えます。