期待は現実を越えていく
私は仕事で3-5年後の業界のトレンド予測や、新サービスの売上規模の算出を何度かやってきましたが、その時に必ず気をつけていたことがあります。
決して、先走った予想をしないことです。
人は無意識のうちに1年で自分たちができることを大きく見積もり、5年後の世界に急速な変化が起こることを望み、10年後や20年後に結果的に世の中に多大な変化をもたらすような、非常にゆっくりとした速度で長〜〜〜いこと世の中に浸透していく重要の波を軽くみる傾向にあります。
特に3-5年後に急激な変化が起こると予想しがちな点には注意です。これを見誤ると、企業としては収益に致命的なミスが発生する恐れがあり、投資家としてはいつまでも来ないブームを先読みして投資をした結果、長らく成果をあげられないことになります。
アインシュタインによれば、この世の中で最速なのは光の速度です。でも、JR東海は「ひかり」よりも速い新幹線に「のぞみ」と名付けました。なるほど、人の期待は時に、光の速度よりも速く膨らむようです。現実よりもついつい先行してしまう期待には、注意が必要です。
なぜ、このような事を話しているかというと、2016年にソフトバンクが大きな期待を胸に、巨額で買収した半導体設計企業ARMの業績が近年、非常によろしくないからです。
そして、このARMが5年後に再上場するとの噂もあり、私は虎視眈々とこのARMを狙っています。
低迷するARMの業績
ソフトバンクは2016年にARMを320億ドル(約3兆4800億円)もの金額で買収しています。モノとモノがインターネットでつながる世界(IoT)が到来して、世界中のモノに組み込まれるコンピュータにARMの設計した半導体が使われるとの狙いがあったからです。
参考記事:IoTって何?モノとモノがネットにつながるメリットとAIが果たす役割。
ARMは半導体そのものを開発する企業ではなく、半導体の設計をして、半導体メーカーに設計ライセンス料をもらうビジネスで成長を続けてきた企業です。
以下、やや古いデータではありますが、スマートフォン、タブレット、スマートウォッチなどのウェアラブルをはじめ、ARMの半導体設計は驚異的なシェアを誇っています。このシェアを見ても、半導体メーカー各社からのARMの設計の支持は絶大です。
このARMの買収に際して、ソフトバンクの孫会長はIoT市場が2025年までに11兆ドル規模に膨らみ、アームの技術がその大半を支えるとの見方を示していました。
しかし、現時点ではこのARMの売上の伸びは非常に芳しくありません。米国株で目が肥えている読者の方なら、この会社の散々な状況が一見してわかると思います。
注目は買収をした2016年からの利益(EBITDA:オレンジ色グラフ)の極端な減少です。世界中の半導体で圧倒的なシェアを誇っているARMでありながら、この利益の減少は惨劇という他ありません。
早すぎるIoTへの期待
この利益の急減速は、ひとえにソフトバンクの経営のミスだと思います。利益の減少は、買収後に急速に拡大した投資などの支出拡大(Total Cost:緑色グラフ)のせいですが、であれば投資に見合った売上拡大(Revenue:青色グラフ)があってしかるべきです。
それが全く見られないどころか、売上成長がなくなっている点を見る限り、IoTの需要の拡大の時期を見誤った過大な投資をしているように見えます。
ソフトバンクグループ内でARMの株を保有するソフトバンク・ビジョンファンドが、アームの低成長で投資ポートフォリオの成績が悪く見えることを嫌って、株をソフトバンクに付け替えているとも聞きます。これでは、あのARMがまるでお荷物のような扱いです。
私は、あまり怒りをあらわにしないタイプの人間なのですが、これに対しては本当に憤りを感じます。ARMは本当に素晴らしい技術を持っています。業界を圧倒するマーケットシャアがそれを物語っています。
ARM再上場の噂
さて、お荷物のような扱いを受けたARMですが、ソフトバンクはARMを今後5年以内に再上場させる計画があると報じられています。日本から個人投資家も買えるようになるかはわかりませんが、買えるようなら私はARMを買います。
ソフトバンク孫社長、5年以内のアーム再上場を目指す(ブルームバーグ)
冒頭で10年、20年かけてゆっくりと世の中に浸透する動きがあるとお話しましたが、私は人工知能、ブロックチェーン(仮想通貨も含め)、そしてARMが狙っているIoT市場がそれに該当すると思っています。
10-20年後に今よりも、身の回りのあらゆるモノにコンピュータが埋め込まれる社会は確実に来ます。問題は企業がIoTで稼げるビジネスを確立できていないために、そのIoT拡大ペースが上がらないことです。
ちなみに、2016年に私がコンサルタントになるための面接試験を受けた時に出された課題が「IoTでどうやったら、もうかるビジネスを作れるか」でした。これは、世界の経営層が直面している課題なのです。
しかし、思い返すとインターネットも1990年代にどうやったら儲けられるか模索していた時代がありました。それを突破したのが、Googleの広告ビジネスとAmazonのECサイトです。インターネットで儲かるビジネスの模索は、10年もの年月がかかってようやく突破できたのです。
IoTのビジネスモデルの壁も突破される時代が確実に来ます。それには、長い時間がかかるため、数年で結果を求めるソフトバンクではなく、数十年のスパンで投資ができる長期投資家にARMの株を任せたほうがよいと思うのです。