ディズニーの2019年10-12月期(2020年度第1四半期)の決算発表がありました。内容は良い決算でした。
アナリスト予想を超える結果に、株価は決算は発表後に、1.4%上昇しています。
- 一株利益:1.53ドルで、予想の1.44ドルを上回る。(前年比-17%)
- 収益:208.5億ドルで、予想の207.9億ドルを上回る。(前年比+36%)
ボブ・アイガーCEOは「力強い四半期だった。Disney+は予想を遥かに超える出来だった」という言葉とともに、2019年11月にリリースした動画配信サービスDisney+の契約者数は2650万人に達したと紹介しています。
この情報だけを見ると、「やった!ディズニーはDisney+が好調で、収益が伸びている!!」と勘違いしそうですが、そうではありません。
収益が大きく増加してみえるのは、買収した21世紀フォックスとHuluの売上が計上されているためです。なので+36%は比較可能な数字ではありません。
また、現時点でDisney+がディズニーの売上に占める割合はたった2%です。
この記事では、決算とDisney+の好調のニュースを聞いて「株を買いたい!!」と前のめりになっている投資家向けに、Disney+が現時点でディズニー社に収益も利益も何も貢献していないという悲しい現実をお知らせをして冷静になってもらった上で、それでも5-10年先にはDisney+に未来があることをお伝えしたいと思います。
この記事のポイント
- 予想を超える一株利益・収益だった。Disney+の契約者は2650万人に達した。
- 収益は+36%成長で好調に見えるが、21世紀FOXとHulu買収の影響。
- 利益はDiseny+への投資のために前年比で大幅減だが、想定ほど悪くなかった。
- 現時点で、Disney+の売上規模はディズニー全体の約2%。2024年目標の9,000万契約達成しても10%以下。
- ただし、2024年までに世界で契約数を伸ばせば、その後は買収による配信コンテンツ拡大と値上げなど収益化の選択肢が増える。今のDisney+はまだ将来の収益のために種をまく段階。
既に、「この記事のポイント」に書いてしまいましたが、以下の記事では、一応、ディズニーの「全社の業績」、「部門別の業績」を確認した上で、Disney+の話に焦点を移すというように、段々と話の焦点を絞り込む形で展開をします。
Disney+の話が興味ある方は、途中の今期の業績の話は飛ばして構いません。
全社の業績
今期のディズニーの決算の数字を見ていきます。
ここでのポイントは、前年に比べて利益が減少していることです。後で部門別に利益を確認しますが、Disney+などを動画配信を担当する部門が赤字になっているためです。
また、通常なら前年比で好調か不調かを判断しますが、2019年1Qには買収した21世紀フォックスとHuluの売上が計上されていないので、参考程度にご覧ください。
単位:10億ドル | 1Q20 | 1Q19 | 前年比 |
---|---|---|---|
収益 | 20.9 | 15.3 | 36% |
営業収益 | 4.0 | 3.7 | 9% |
営業利益率 | 19% | 24% | – |
純利益 | 2.1 | 2.8 | -23% |
一株利益 | 1.53 | 1.84 | -17% |
部門別の業績
ここでは、もう少しだけディズニーの業績を掘り下げるために、部門別の売上と収益と見ていきます。
ディズニーは部門名を見れば、何をやっているのかが分かりやすいものが多いですが、部門の説明を載せておきます。
ディズニーの部門
- メディアネットワーク:ABCや21世紀FOXなどのテレビ局などのメディアの売上
- パーク&グッズ:テーマパークとキャラクターグッズの売上
- スタジオ・エンターテイメント:ディズニー・スターウォーズ・ピクサー・マーベルなどの映画の売上
- Direct to Consumer(D2C)&海外:動画ストリーミングサービスのDisney+、EPSN+(スポーツ専門動画配信)、Huluの売上と米国以外の売上
部門別収益
買収の影響が大きいですが、D2C(動画配信サービス)の売上が伸びていることが確認できます。前年からの増加分31億ドルは全部門の中でトップです。
売上(単位:10億ドル) | 2019年4Q | 2018年4Q | 前年比 |
---|---|---|---|
メディア | 7.4 | 5.9 | 24% |
パーク&グッズ | 7.4 | 6.8 | 8% |
スタジオエンタメ | 3.8 | 1.8 | 106% |
D2C&海外 | 4.0 | 0.9 | 334% |
その他 | -1.7 | -0.2 | 797% |
合計 | 20.9 | 15.3 | 36% |
部門別の利益
利益でも注目はD2C&海外です。赤字幅が拡大しているのが見て取れます。
営業利益(単位:10億ドル) | 2020年1Q | 2019年1Q | 前年比 |
---|---|---|---|
メディア | 1.6 | 1.3 | -24% |
パーク&グッズ | 2.3 | 2.2 | 9% |
スタジオエンタメ | 0.9 | 0.3 | 207% |
D2C&海外 | -0.7 | -0.1 | – |
その他 | -0.2 | 0.0 | – |
合計 | 4.0 | 3.7 | 9% |
Disney+の売上規模はディズニー全社2%
利益も収益もDisney+を含む「D2C&海外部門」が鍵を握っている様子が見えてたところで、ようやく本題のDisney+の話に入ってきます。
投資家の中には、「Disney+の成功がディズニーの売上を押し上げる」と考えている人が一定数いるようですが、まずその誤解を解きたいと思います。
結論から言うと、Disney+の売上は全く大したことがありません。ウォルト・ディズニーは売上規模が大きいので、Disney+が好スタートを切ったと言っても、現時点でその売上規模はまだ2%です。
今期の決算書には、動画サービスの契約者数とユーザ単価が公開されていて、今期の推定売上を算出することができます。
計算してみると、Disney+の今期の売上は4.4億ドルでした。なので、今期200億ドルを超えるディズニーからすると、Disney+の売上規模は約2%とわかります。
動画サービス | 加入者数 | 平均単価 | 四半期推定収益 |
---|---|---|---|
Disney+ | 2650万人 | 5.56ドル | 4.4億ドル |
EPSN | 660万人 | 4.44ドル | 0.9億ドル |
Hulu動画 | 2720万人 | 13.15ドル | 11億ドル |
Hulu LiveTV | 320万人 | 59.47ドル | 5.7億ドル |
合計 | のべ6350万人 | 34.23ドル | 22億ドル |
ディズニーは2024年には、Disney+の契約者数で6,000万人から9,000万人を目指すと公式に発表していますが、9,000万契約を獲得しても、ディズニー社の売上の10%にも満たないです。
投資家がディズニーに期待すること
ここまで説明すると、「Disney+の売上は5年後でも大したことないのに、なぜDisney+の好調のニュースで株が上がっているの?」と思うのが自然です。
ただ、基本的に市場は賢いので、2024年に目標を達成してもDisney+の売上規模が小さいことは知っているはずです。
それでもDisney+の好調のニュースで株価が上がる理由は、投資家は「Disney+の売上は後で伸ばせばいいから、まずはユーザ数を増やすべし」と思っているからです。
というのも、投資家もディズニー社もDisney+を育てるために、次の2段階を想定しているように思えるのです。
- 低価格で高品質な作品の提供を武器に、低収益でもユーザ数を増やす時代(恐らく2024年まで)
- 作品数を拡大をして値上げを図り、収益を増やす時代(恐らく2024年以降)
ディズニーが段階を経てDisney+を育てる理由は、そのまま戦っていたら、圧倒的なユーザ数と作品数を誇るネットフリックスやアマゾンに勝てないからです。まずは戦えるようになるまで、低価格でもユーザを取りに行く作戦をしています。
だから、Disney+のリリース後にユーザ数が順調に伸びていると聞いて、投資家は「今のところ上手くユーザ数は増えているね」と喜んで株が上がってると考えています。
Disney+のユーザ数が増えた後の展開
無事にDisney+が育ってユーザ数が増えたあとに何が起こるかですが、ディズニーが取る選択肢は恐らく、「HuluのDiney+への統合」か「買収」、そして「値上げ」をすると思います。
ディズニーと言えども、いつまでも売上規模が小さいサービスを続けるには限界があります。ある程度ユーザが増えたら、収益を拡大するためには、次は値上げを考えるはずです。
この時、値段だけを上げるとユーザ離れが起こるので、作品数を増やして値上げに見合った価値を提供する必要があります。なので、ユーザ数が増えた段階で、「HuluのDisney+への統合」や動画配信サービス戦争に破れた企業の買収が起こると思います。
もともとディズニーは映画でも、ピクサー・マーベル・スターウォーズと次々買収を繰り返して成長してきました。買収は得意のはずです。
ただ、こうした次の一手に早く移るためにも、今は何よりもユーザ数を増やす必要があります。だから、投資家はDisney+のユーザ数の増加に敏感に反応しています。
まとめ
ディズニーの2020年1Q決算では、Disney+が2650万契約を突破し、収益も利益も予想超えたため、株価があがりました。
ただし、これを「Disney+が売上を押し上げて、好決算を出した」と理解するのは早合点です。Disney+はまだディズニーの売上の2%ほどの規模しかないからです。
市場はディズニーが動画配信サービスで成功するためには、何よりもまずユーザ数を増やす必要があることを理解しているようなので、契約数の順調に伸びていることをまずは喜んでいるようです。