2020年2月後半から、毎日、値動きの荒い相場が続いています。
投資家は毎日さまざまな価格をチェックしていると思いますが、「上がった!」とか「下がった!」と反応する以上に、どんなデータをどう見ればいいでしょうか。
この記事では、2020年3月の荒れているアメリカ株市場を左右している要因を見ていき、それが改善しているのか悪化しているのかを判断するために、見ておいたほうがいいかな思うデータとその読み方を紹介します。
この記事のポイント
- 「株価」と「金利」などの基本的なデータ以外に、見ておいたほうがいいのは「新型コロナウイルスの米国での感染者数」と「社債利回り」。
- 上の2つのデータを見る理由は、新型コロナウイルスの恐怖と、企業の経営悪化の懸念が今の相場に影響を与えているため。
- それぞれのデータに対して「どのサイトで確認できるか」、「何をチェックするか」を紹介する。
2020年3月の市場が荒れている原因
どんなデータを見るかの前に、今の相場が荒れている原因を整理しておきたいと思います。
結論から言うと、今の相場が荒れている原因は「新型コロナウイルス」と「原油安」の2点です。
2020年3月の相場が荒れる原因
- 新型コロナウイルス:世界中の工場での生産能力減少と、人々の消費意欲減少。
- 原油安:ウイルスに加えて、大幅な原油安で石油企業の業績が悪化。
原油安について、少し補足します。まず、シェールオイルのおかげで今やアメリカは世界最大規模の産油国です。
3月9日には一時31%の原油価格の急落がありましたが、産油国となったアメリカには、原油安で石油関連企業の収益を圧迫するデメリットが大きく存在します。
産油国になったアメリカのメリット・デメリットは詳しく書いています。
原油生産量1位。アメリカ経済を支えるシェール革命
2018年は45年ぶりに、アメリカが原油生産量で世界一に返り咲きました。生産量増大はシェール革命によるものですが、そもそもなぜアメリカでしかシェールオイルの採掘が行われていないのでしょうか
この2つが原因で、株安・社債利回り上昇・国債金利低下・ドル安が起きています。その仕組はこちらのでお話したとおりです。
今の荒れた市場で起こっていること。どうやって資産を守るか
2020年3月9日、市場が大きく荒れています。「いったい、何が起こっているの?」と混乱してしまわないように、この記事では今の経済の状況を整理した上で、どうやって自分の資産を守るかを考えていきます。
シーゲル教授の懸念もウイルスと原油
ちなみに私だけでなく、米国株の分析で定評があるシーゲル教授も、最近の米国株の下落の原因は「原油が50%」と「新型コロナウイルスが50%」だと言っています。
He said the big drop was due “about 50% to the oil situation and 50% to other concerns associated with the coronavirus.”
最近の株価の大幅な下落は、原油の状況によるものが50%、新型コロナウイルス関連の懸念によるものが50%だとシーゲル教授は語った。
出典:『Jeremy Siegel Is ‘Not Convinced We Can Prevent a Recession’』
上の記事では、株に関して強気で知られるシーゲル教授が「景気後退に突入しないという確信はない」と発言するなど、いつになく弱気になっています。
これは少し気がかりです。
今見るべき指標は感染者数と社債利回り
最近のアメリカの混乱の原因がわかったところで、状況が改善しているのか、悪化しているのかを確認するためには何を見たらいいでしょうか。
私が個人的に注目しているのは、以下2つです。
見るべき指標
- 新型コロナウイルス:アメリカの感染者数の増加数
- 米企業の業績懸念:低格付け企業の社債利回りの上昇(どれだけ社債が投げ売られるかを見る)
新型コロナウイルスのアメリカでの感染者数から株価の底値を見る
基本中の基本かもしれませんが、新型コロナウイルスの恐怖が米国で広がっているか否かをみるためには、米国での感染者数を確認するのが一番です。
見るべきポイントも感染者数の増加が増加しているのか、減少しているのかでいいと思います。
特に、米国の感染者数が増加から減少にいつ反転するかは大事になります。
歴史を振り返ると、SARSの増加数がピークを付けた時点で香港株が底値をつけて上昇に転じたデータがあるからです。
もしもアメリカの市場の混乱の原因が新型コロナウイルスだけなら、SARSのときと同様に感染者数の増加がピークをつけたら、アメリカ株が上昇する可能性があります。
感染者数データの見るべきポイント
- アメリカの感染者数はいつ増加から減少に変わるかに注目。
- SARS時の香港株のデータでは感染者数の増加がピークを付けた時点で、市場が底を打った。
- もしも新型コロナウイルスだけが株価低迷の原因なら、アメリカの感染者数が増加から減少に変わるタイミングで、株は上昇に転じる。
新型コロナウイルスの感染者数のサイトとその見方はこちらで案内しています。
>>【新型コロナウイルス】世界中の患者数をトラッキングするwebサイト
ただし、上記のサイトでは国別の毎日の増加数をトラッキングができません。米国の感染者の推移が知りたい場合には、データ反映が遅いですが、以下の日経新聞のサイトも合わせて使うことをおすすめします。
社債利回りから企業の業績懸念の高まりを見る
新型コロナウイルスの感染者数の増加以外に、気を配っておきたいのは業績悪化の懸念から社債が売られていないかです。
2020年のアメリカでは社債の発行が膨らんでいて、過去のリーマンショックやITバブルなどの危機に匹敵する規模にまで膨らんでいることは聞いたことがあると思います。
この状況で企業の業績懸念から社債が売られて、社債利回りが上昇(企業の資金調達コストが上昇)すると、体力のない企業の資金繰りが苦しくなるので、社債の利回りが上昇していないかをチェックしておく必要があります。
なお、チェックするのは市場で真っ先に売りが入りやすく、格付会社から返済能力が高くないと見られている企業の社債(ハイイールド債)の利回りの上昇です。
以下のURLをクリックすれば、ハイイールド債の状況を確認できます。
>>米企業ハイイールド債スプレッドのグラフ(FRED)
このグラフは値が上昇するほど、業績懸念か社債の発行のしすぎで社債が売られていることを示します。
ちなみに、少しだけ補足すると、正確には上のグラフはハイイールド債の利回りではありません。
ハイイールド債の利回りから、国債の利回りを引き算した値(スプレッド)です。このほうが国債の影響を差し引いて、純粋に企業の信用度(倒産しやすいかどうか)をみることができるので、スプレッドを見ています。
ハイイールド債スプレッドの見方
- 近年の最高スプレッド8.87%(2016年)を超えるかどうか。
- 景気後退期でないときの歴代最高スプレッド11.20%を超えるかどうか。
2016年も歴史的な原油安がおこった年でした。WTI原油先物で26.0ドルまで売られています。
2016年はハイイールド債のスプレッドが8.87%になっても、まだ景気後退になりませんでしたが、この値を超えたらいよいよ危ないかもしれません。
8.87%を超えたら次の目安は、景気後退期ではない時期で最大の11.20%(2012年10月)です。今まで、この数字を超えたのは景気後退時しかありません。この値を超えたら本当にマズイ状態だといえます。
この記事を書いている時点で最新のデータは2020年3月9日分ですが、まだスプレッドは6.68%です。
ただし、1日に1%を超える速さで上昇している日もあるので、急激に8.87%や11.20%に迫らないかチェックしておく必要があります。
ハイイールド債のチェックポイント
- 信用度が低い企業の社債(ハイイールド債)のスプレッドが以下の2つを超えて上昇していないことを確認する。
- 1つ目は2016年の原油安時の最高スプレッド8.87%。
- 2つ目は景気後退ではない時点での最高スプレッド(2012年10月)の11.20%