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米国企業の資金繰りに問題がないかを確認する方法

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新型コロナウイルスの影響で店舗が一時的に閉店したり、企業活動が止まっているというニュースが流れると、「自分が株を持っている企業は潰れないか」、「これから株を買おうとしている企業は倒産しないか」と漠然と不安になります。

そんな時に、決算書の基本を少しだけ知っていると、企業がどの程度健全な体力を持っているかを数字で確認して、安心することができるようになります。

この記事では、企業の資金繰りに問題を抱えないかどうかを確認するための指標を説明し、有名なアメリカ企業のいくつかを取り上げて、資金繰りの健全性を確認していきます。

この記事のポイント

  • 企業の体力を確認するための指標として、流動性比率と当座比率がある。
  • 一般的な目安として、流動性比率が1.0以上、当座比率が0.8以上だと健全と言われる。
  • グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトはこれらの基準を見たすが、今の資金繰りで問題視されている航空業界などは基準を大きく下回る。

企業の体力を図るための指標

企業が倒産するかしないかの基準ですが、1年以内に差し迫った支払いさえはらうことができれば、倒産することはありません。

これは住宅ローンを抱えている、個人にも言えることです。

個人の場合の例に考える

たとえば、ある人が1年間に住宅ローンの支払いが100万円あるとして、手元に現金(当座資産)が80万円あるなら、たとえ数ヶ月大きな病気をわずらって仕事ができなくなっても、なんとかやって行けるでしょう。

このときの、(当座資産80万円) / (1年以内に支払う負債100万円) = 0.8 という比率を当座比率といいます。

そして、この人は実は靴や服を販売する仕事を個人でやっていたとして、現金80万の他に、売ったらすぐに現金化できる在庫が20万円分あるなら、今後1年間で在庫分を含めて現金になりそうな資産(流動性資産)は100万円あることになります。

このとき、(流動性資産100万円) / (1年間で支払う負債100万円) = 1.0の比率のことを流動性比率と言います。

そして一般的な企業では、当座比率は0.8以上、流動性資産は1.0以上あれば、とりあえず安全と言われています。

つまり、現金は1年間の支払いの0.8年分、在庫なども含めて現金にできそうな資産も合わせるなら1年分あれば倒産しないでしょうと考えられています。

一般的な企業の目安

  • 現金の当座比率は0.8以上、在庫なども含めた流動性資産は1.0以上あれば、そこそこ安全な企業。

有名なアメリカ企業の健全性を確認する

さて、用語説明も終わったところで、早速有名なアメリカ企業が潰れないかどうかを見ていきます。

まず、誰もが知ってるアップルの企業の体力を、2019年10-12月期の決算データから見ていきます。

アップルの健全性

  • 当座比率(Quick ratio):1.44
  • 流動性比率(Current ratio):1.60

当座比率0.8以上、流動性比率1.0以上の基準を楽にクリアしています。アップルは手持ちの現金だけで、当面の支払いに困らない状態にあるので、まず倒産しなさそうです。

逆に、資金繰りが心配されているアメリカの航空業界のデータを見てみると、少し様子が違います。

アメリカンエアラインの健全性

  • 当座比率(Quick ratio):0.30
  • 流動性比率(Current ratio):0.45

新型コロナウイルスの発生前の2019年12月締めのデータを使って当座比率を計算してみると、当面の支払いの3割の現金しか手元になかったことになります。

このような不健全な体質の上に、今ではウイルスの影響で航空機の乗客が激減しています。なので、「ウイルスの影響が数ヶ月続くだけで、アメリカの航空会社で倒産も起こりかねない」というのは、極端に悲観的なストーリーではないようです。

ただし、支払いに困った場合には、倒産の前にまずは売れる資産を手放すことになります。事業所や工場、航空会社なら飛行機なども資産です。

売上を生み出すための資産を売ってしまったら(航空機などを売ってしまったら)、新型コロナウイルスが収束しても、もとの売上の水準に戻りにくくなります。なので、これから航空業界に投資する場合には、注意が必要です。

アメリカの大手IT企業はおおむね健全

先程、アップルの企業の健全性を見ていきましたが、グーグル・アマゾン・フェイスブック・マイクロソフトに加えて、ビザやマスターカードなどのアメリカ大手IT企業は、概ね健全です。

企業名 当座比率 流動性比率
アップル 1.44 1.60
グーグル 3.25 3.37
フェイスブック 4.28 4.40
アマゾン 0.86 1.09
マイクロソフト 2.65 2.80
ビザ 1.00 1.27
マスターカード 1.11 1.42

2020年3月末時点で、アマゾン以外の株は軒並み20%以上売られていますが、どの企業も健全な支払い能力があるので、株が下がっても安心して長期的に保有できる銘柄だと言えます。

オールドビジネスに気になる傾向

アメリカの大手IT企業は問題なさそうですが、その他のセクターを見てみると、有名企業であってもやや安定性にかける企業が見え隠れします。

企業名 当座比率 流動性比率
P&G 0.38 0.63
スターバックス 0.48 0.68
コカコーラ 0.56 0.76
マクドナルド 0.86 0.98

上記の表の中で、やはり目につくのはP&Gです。

ただし、P&Gは、新型コロナウイルスが発生しても売上が大きく落ちるビジネスではないので、航空業界のようにはならないと思います。ビジネスが継続できる企業なら、当座比率の0.48ではなく、在庫などの含めた流動性比率0.63で評価しても良いと思うからです。

またP&Gのように、毎日潤沢にキャッシュが入ってくる企業の場合は、普段からそこまで現金を積みましていないのが通常です。なので、通常通りビジネスが展開できている企業であれば特に問題はありません。

逆に心配なのは、スターバックスです。全世界で店舗閉鎖の影響を大きく受けているはずなので、当座比率0.48の支払い能力は倒産の心配とは言わないまでも、ぜひ改善してほしいレベルです。

2020年3月末時点で、レストラン業界ではスターバックスが最高値から34%下落、マクドナルドが26%の下落をしていますが、この下落率の違いは健全性の違いかなと感じます。

レストラン業界も新型コロナウイルスでダメージを受けて、収束後に回復する分野だと言われていますが、安定性を考えるならスターバックスよりはマクドナルドへの投資が妥当かなと考えてしまいます。

流動性比率・当座比率をモーニングスターのサイトから確認する

さて、ここまで流動性比率と当座比率を見てきましたが、財務諸表から数字を拾って計算するのは大変なので、最後にモーニングスターのサイトから確認する方法を掲載します。

英語サイトですが、手順はたったの3ステップなので、すぐに慣れると思います。

手順1. モーニングスターのサイトにアクセスし、検索ウインドウから調べたい企業を検索する

手順2. Key Ratiosを選択して、FUll Key Ratios Dataをクリック

手順3. Financial Healthタブの下にある「Current Ratio(流動性比率)」と「Quick Ratio(当座比率)」を確認

投資している企業の健全性確認にお役立てください。


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