アメリカの物価は2022年に比べるとずいぶんと伸びが鈍化しました。
しかし、イスラエルの戦争が始まってから原油価格の上昇が懸念され、今後のアメリカの物価の見通しに不透明感が出てきています。
結局、インフレは鈍化するのかそれとも再燃するのかどっちなのかが気になるところです。
現時点での私の考えは、どちらかといえばアメリカの低成長によってインフレ鈍化(低インフレ・デフレ)するほうが可能性が高いと思います。
この記事のポイント
- 原油価格が上がるとたしかに消費者物価は上昇する傾向がある。
- しかし、原油価格が上昇しても、幅広い品目に価格上昇が波及しない(消費者物価コアがあまり上昇しない)場合もあり、その場合はインフレは根付かずに不況到来でインフレは鈍化する。
戦況と原油価格について
つい先日まで、このブログでアメリカのインフレは低下傾向にあるという話をしました。
上の記事では、(1)すでにアメリカのインフレ基調が2.5%まで下がっていること、(2)原油価格が9月末で大きく低下したように見えることから、たとえ9月の消費者物価が予想を上回ってしまったとしても、その後のアメリカの物価は再び低下するのではないかと考えていました。
しかし、イスラエルが戦闘状態に入ってから、少し不穏な空気が流れているのを感じます。
現時点ではまだ原油価格がはっきりと上昇トレンドに転じたようには見えていませんが(下図)、もしもこれから原油価格が大きく上昇するようなことがあれば先程の(2)の9月末からの原油価格下落によるインフレ低下はシナリオが崩れることになります。
また、過去にオイルショックが起こった1973年を振り返ると第4次中東戦争開始から原油価格が急上昇したわけではなく、数ヶ月してから中東諸国が西側諸国に石油の輸出を禁止した後に大きく上昇しています。
だから、イスラエル開戦直後の今はまだ原油の上昇が穏やかでも、今後の戦況によって原油が急上昇する恐れはあると言えます。
原油価格とアメリカの消費者物価の関係
ここまで話をすると、「これからのアメリカ経済はインフレが再燃するんじゃないか」と思うかもしれません。
たしかに、それはあるかもしれませんが、私はまだインフレ再燃の証拠は掴んでいません。
まず、いくつかの事実を確認していきたいと思います。
- (1)原油価格は消費者物価に大きく影響を与える。
- (2)しかし、原油価格が上昇しても、エネルギーなどの品目を除いた消費者物価コアは伸びない場合もある。(世界金融危機前がその例で、原油下落後はデフレ的になっている)
まず、1つ目に確認することは、原油価格はたしかに消費者物価に影響を与えるという点です。
次の図を見ると原油価格(赤線)は、消費者物価の伸び(青線)と似たような動きになっていることがわかります。
なので、「原油高だからインフレ率は上昇するのではないか」という考えは一定の正しさがあります。
しかし、原油価格の上昇がしつこいインフレとして根付くかどうか(1970年代のようなインフレを繰り返すかどうか)は、別の問題です。
例えば、2008年リーマンショックの前には原油価格の急上昇が見られましたが、この時にはエルギー関連の品目以外の物価の伸びに大きな上昇は見られませんでした。
次のグラフは2008年時の様子ですが、原油価格が上昇している間も、エネルギーや食品を除く消費者物価コアの伸びは2%台半ばにとどまっていました。
ここまでまとめると、戦況によっては原油価格は上がるかもしれませんが、それだけでアメリカのインフレが根付くと考えるのはまだ早いと思われます。
もしもインフレが根付いていないなら(消費者物価コアが大きな上昇を見せていないなら)、2024年のどこかで来るであろうアメリカの景気後退でインフレが退治される可能性は十分あります。
そして、消費者物価コアは現時点ではまだ低下が続いていて、上昇の兆しは見えません。
これからの消費者物価コアが低下を続けるかどうかを注意深く見守っていきたいと思います。