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【数式なし】量子コンピュータのニュースを読むための知識まとめ

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1月9日ラスベガスで、最先端のコンピュータ製品の展示会であるCESが今年も開催されました。CESでは毎年、各社が最新の製品を発表する場になっており、ここで発表された内容がその年のトレンドにもなる重要な場でもあります。

そのCESの場で、2018年にはインテルによる49量子ビットコンピュータの発表があり、翌年の2019年にはIBMによる世界初の”実機の”商用商用量子コンピュータ販売発表がされるなど、2年連続で量子コンピュータ関連のニュースがあり、この分野が盛り上がりを見せています。

量子コンピュータは、従来のコンピュータの1億倍早くなるとの調査結果もある新型コンピュータです。その応用範囲は、新薬の開発、新型バッテリーなどの新素材の開発、最適な金融ポートフォリオ分析や、さらに賢い人工知能の実現など幅広く、近年IBM・Google・インテル・アリババなど大手IT企業だけでなくベンチャーや国家を含めて、こぞって研究開発競争をしています。

量子コンピュータはまだ未完成の技術ですが、技術が成熟したときには既存のコンピュータが置き換わることになるので、インパクトは計り知れません。かつて企業向け大型のコンピュータで世界を席巻したIBM、90年代にWindowsで天下をとったマイクロソフト、2010年代にクラウドで頂点をとったアマゾンのように、量子コンピュータの分野でトップになった企業が、世界のトップに躍り出るほどの力があると思っています。

これから私達一般人も、この新しいコンピュータについてのニュース記事を目にする機会が増えますので、このタイミングで量子コンピュータについて、数式を使わず、できるだけわかりやすくまとめ、最後に私がこの技術をどう見ているか書きたいと思います。

なお、コンピュータの特長とか開発競争の様子はいいから、投資家目線で量子コンピュータ銘柄は何で、買いか否かを教えて欲しいと急ぐ方は、以下2点が私が考える結論です。

  • 量子コンピュータを開発して、現状トップ集団を走るのはグーグル・IBM・インテル。それを追いかける形でアリババとマイクロソフトです。
  • ただし、この技術はまだ未成熟です。理由は専門家でも5年後に成熟できたら夢のようと話しており、花が開くのは2030年代との予測もあります。売買の頻度が3年未満の短期・中期の投資家は全く気にする必要はありません。長期投資家でもニュースで動向をウォッチするだけで、資金を振り向ける必要はまだないと考えています。

量子コンピュータって何?

そもそも量子コンピュータの”量子”とは、分子・原子などのとても小さな物質のことを指します。このとても小さな量子は、普段私達が目にする物とは違うちょっと変わった動きをします。

たとえば、普段私達が目にするコインは机の上に置かれている状態では、「表」か「裏」かのどちらかの状態になりますが、量子と言われるほど小さな物質の世界では、「表」か「裏」かだけでなく、まるでコインが机の上ですばやくクルクル回るかのように「表であると同時に、裏でもある」状態が存在します。

この量子特有の「表であると同時に、裏でもある状態」を使って、処理を行うのが量子コンピュータです。

量子コンピュータの計算はどうして速いのか?

普通のコンピュータの情報の最小単位(ビット)は「0」と「1」動いていますが、この量子コンピュータでの情報の最小単位(量子ビット)は「0」「1」だけでなく、「0と同時に1でもある」状態を使います。この特殊な状態のおかげで、量子コンピュータは圧倒的に計算をすることができます。

どういうことか具体例を使って、説明します。クロネコヤマトの宅急便が香取さん、草彅さん、稲垣さんの家の3箇所に配達する時、どのルートをたどれば最速で回れるか考えることにします。

この場合、普通コンピュータでは「香取、草彅、稲垣」の順番で回った場合に何分かかり、次に「香取、稲垣、草彅」の順番だったら何分という形で、全6パターンを順に計算(全6回の計算)をします。

一方で、量子コンピュータでは「0と”同時に”1でもある」状態をうまく使うことによって、『香取、草彅、稲垣』で回った場合だけでなく、他の経路で回った場合も含めた全6パターンも”同時に”計算することができます。(「0と”同時に”1でもある」状態をどのように使えば、すべての経路を同時に計算できるようになるかの説明はとても細かい話になるので、ここでは省きます)

この量子コンピュータの同時に計算ができる特長は、普通のコンピュータの計算するよりも桁違いに強力です。先程は「香取、稲垣、草彅」の家を効率的に回る全6ルート考えましたが、10人に増やして13人にするだけで経路のパターンは62億通りになり、普通のコンピュータでは62億回の計算が必要になりますが、量子コンピュータではこれらを一気に計算できます。

量子コンピュータで何ができるようになるの?

ここまでで量子コンピュータは圧倒的な計算量が自慢のマシンだということがわかりましたが、一体どんな用途に使われるんでしょうか。

現在期待されている、量子コンピュータの主な用途は次の4点です。

  • 配送などの物流、生産ラインの効率化
  • 化学物質シミュレーションによる新素材・新薬発見
  • 株・債権などの金融資産のポートフォリオのリスク分析
  • 人工知能の学習高速化・高度化

量子コンピュータは複数のパターンの同時計算を行い、その中からもっとも優れたものを発見するのが得意です。例えば、2018年にグーグルと提携を行ったダイムラーは、最適な輸送経路の発見や生産計画の効率化を行っています。

また、量子コンピュータにより高速な計算が可能になるため、従来のコンピュータで膨大な計算がかかっていた化学物質のシミュレーションが短時間に精度良く実行できます。これにより、新薬・新素材の開発が一気に進むことが期待されています。ダイムラーは新しいバッテリー材料の開発を表明している他、素材メーカーのJSRはエレクトロニクス・環境・エネルギーの分野での新素材発見の実証実験を行っています。

銀行大手のJPモルガン・チェースはIBMと提携し、投資、運用戦略や金融リスクの算定活用できるか量子コンピュータを用いた実証実験を行っている他、莫大な計算が必要な人工知能の学習も短時間化でき、より複雑な人工知能が扱えるようになるので、人工知能がより賢くなります。

量子コンピュータの開発を急ぐ会社

量子コンピュータの研究は1980年代から進められていましたが、技術的に困難でなかなかスポットライトが当たることがありませんでした。しかし、突如2011年にカナダのD-waveという会社が、最適な組み合わせの発見だけに特化した専用量子コンピュータ(量子アニーリング)を開発したと発表しました。NASAとGoogleによる記者会見で、D-waveの量子コンピュータは通常のコンピュータに比べ1億倍速いと発表されてブームに火がつくと、各社による開発競争が激化していきました。

D-waveのような最適な組み合わせ発見専用量子コンピュータ(量子アニーリング)ではなく、通常のコンピュータのように広範囲の用途に使える量子コンピュータが現在の主流ですが、その主要プレイヤーは以下の企業です。

  • Google
  • IBM
  • インテル
  • アリババ
  • マイクロソフト
  • その他、IonQなどのベンチャー企業

そして、これらの企業で激しい開発競争が行われています。次に上げるニュース記事の日付と増えていく量子ビット数を見るだけで、バチバチと火花の音が聞こえそうです。

2017年5月:IBMが17量子ビットの量子コンピュータを発表

2017年7月:マイクロソフトが今後トポロジカル量子コンピュータを開発することを発表

2017年11月:IBMが50量子ビットの量子コンピュータを発表

2018年1月:インテル49量子ビットの量子コンピュータをCESで発表

2018年3月:Google72量子ビットの量子コンピュータを発表

2018年3月:アリババ11量子ビット量子コンピュータをクラウドで提供開始

2018年12月:ベンチャー企業IonQが1原子を1量子ビットとする“イオントラップ”型量子コンピュータで、既存の全量子コンピュータを上回る性能を実現

2019年1月:IBM史上初の商用量子コンピュータの販売を発表

量子コンピュータ開発の現在地

さて、今まで量子コンピュータの夢を広げる話をしてきましたが、これから現実を見据えて、量子コンピュータが直面している壁について、話をしたいと思います。

いまの量子コンピュータが抱えている一番大きな問題は、エラー(ノイズ)です。本来、量子ビットの結果が0になって欲しいのに、結果が1になってしまうような事があるのです。これは計算途中で「0であると”同時に”1である」コインが回っている状態を維持することが、とても大変なためです。(具体的には、量子のコントールのために、コンピュータの中の温度を-273度で維持し、余計な熱や衝撃を与えないようにする必要があります。)

ここで打ち手として、エラーを修正できる量子コンピュータ(ユニバーサル量子コンピュータ)の研究が進んでいますが、2019年1月時点でこのエラー修正を実現する技術が確立できていません。

そこでGoogleやIBMはエラー訂正ができないけれども、量子のコンピュータの計算を数多く何度も実行する方針をとり、(多少のエラーはあるから100%の精度ではないけれど)「何%の確率でこの結果になりそうだ」という確率付きで答えを出すようにしています。GoogleやIBMはこうした量子コンピュータの使い方でも、化学シミュレーションなどができると主張しています。

ただ、Googleのベンチャーキャピタル部門で米GVのパートナーでもあるShaun Maguireは、化学シミュレーションを高速化できるのに必要な量子ビットの数の目安を「5000個」としていて、今はその規模にまだまだ達していません。

また、イェール大学の物理学教授のSteven Girvinさんは、”量子コンピューターの分野では大きな進歩があることは確かでしょう。でも、そういった大きな成果をもたらすには5年では短すぎますね”と語っています。

投資家の量子コンピュータとの向き合い方

最後に長期投資家として、ではこれらの銘柄への向き合い方をお話したいと思います。

まず、3年未満の短期〜中期で株を売買することを考えている投資家には、Google・IBM・インテルなどの量子コンピュータ銘柄を今すぐ買う必要は全くありません。量子コンピュータがまだまだ実証実験の域を出ていない現状では、今どこかの会社に投資しても、量子コンピュータによってすぐに売上が上がる見込みは低いからです。

3年以上保有するような長期投資家であったとして、2019年現在は御覧頂いたようにベンチャー企業も含めて、開発競争の真っ最中で投資銘柄を絞ることも難しいため、今すぐの投資はおすすめしません。現に、2018年12月にベンチャー企業のIonQは突如、既存のどの量子コンピュータよりも高性能な新しい方式の量子コンピュータを発表し、話題になりました。量子コンピュータのてっぺんに立つ勝者は、今はまだ無名の会社かも知れないのです。

しかしながら、10-20年のスパンではに大きな成果をもたらす研究テーマではあることは間違いなさそうなので、長期投資家としては、ニュースの動向を追えるように注視しておくと良いと思います。

そのときに、投資家が注目したいのは「エラー訂正ができなくても、現実の問題に適用できるようになってきたことが実証実験で示されるか」、もしくは「エラー訂正ができる量子コンピュータが実現可能する見込みが出てきたか」。そして、いちばん大事なのがそれを実現するのは「どの会社の量子コンピュータか」です。

「本当に未来を変える量子技術はエラー耐性のある量子コンピュータである。エラーマシンの可能性を探りながらも、私たちは長期的なゴールであるエラー耐性のある量子コンピュータの時代の到来を早めることを見失ってはいけない。 (カリフォルニア工科大学のジョン・プレスキル教授)」


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