投資家が注目しているアメリカの雇用統計の発表が、日本時間の今晩に予定されています。
それについて、つらつらと思っていることを書いていきたいと思います。
この記事のポイント
- 12月も雇用は恐らく強かったと思われる。失業保険数も伸びていないし、ADP発表の雇用者数も強かった。
- 11月以降はテクノロジー企業のレイオフが続いているが、それを上回るレジャー・ホスピタリティ業界の雇用回復が続いている。
- 個人的に一番の注目点は賃金上昇。過去3ヶ月は上昇が続いている。
雇用はまだ強そうに見える
投資家にとっては、今のアメリカは雇用が弱まってる様子が見られたほうが好都合な場面になっています。
もしも雇用が強ければ、「賃金上昇でインフレ加速」という展開を恐れるFRBはさらなる金融引き締めをしなければならなくなるからです。それは株価も国債価格もともに引き下げる効果があります。
でも、今のところ雇用が弱まっている様子はあまり見られません。
たとえば、毎週発表されているアメリカの失業保険の申請件数を見ても、12月に失業者が増えている様子は見られません。
また昨晩ADP社から発表された12月の雇用者数も予想よりも強かったです。
- 予想:+14.9万人
- 結果:+23.5万人
- 前回:+12.7万人から+18.2万人に上方修正
このように雇用統計前に出揃っている数字はいずれも12月も雇用が強かったことを示しています。
人員削減が続く業界もあるが
「そうは言っても、最近ではアマゾンが追加でレイオフ(一時解雇)を宣言したり、雇用が冷え込んでいる兆しはあるじゃないか」という見方もあります。
確かに、このあたりは雇用の弱まりを唯一感じられるところかも知れません。
最近では、新型コロナウイルスの流行期に追い風を受けて好調だった(IT業界を中心とする)企業の潮目が変わって雇用を削減しているように見えます。下の図はテクノロジー企業の月別のレイオフの数をまとめたものですが、11月頃から大手ハイテクを中心にレイオフが続いています。
また、1月はわずか5日でかなりの数のレイオフが発表されています。
しかし、コロナ追い風が弱まって人員を削減する企業もあれば、人員を急速に増やしている企業もあります。
例えば、旅行や観光(レジャー・ホスピタリティ)の業界の11月の雇用者の増加数は8.8万人で、これはテクノロジー企業企業のレイオフの数を大きく上回ります。
しかも、レジャー・ホスピタリティ業界の人員はコロナ前に比べてまだ100万人ほど労働者が少ないので、伸びしろもあります。
一旦ここまでの内容を整理すると、コロナ恩恵を受けていた企業の失速で一部の業界では雇用の弱まりが見られるものの、日常を取り戻しつつある旅行や観光分野を中心に雇用増加はまだ続いていて、アメリカの雇用は堅調に推移しているように見えます。
雇用統計以外のデータは「12月もアメリカの雇用が強かった」というデータが出ていますが、投資家が一番注目している雇用統計もそれに続くのか、続くならいっそうの金融引き締めを市場が予想するのかが注目です。
個人的な注目点は平均時給の伸び
最後に、雇用統計でもう一つ注目しているのは、平均時給の伸びです。
前年比で数字を追いかけていると目立たないのですが、前月比年率で見てみると最近3ヶ月は賃金上昇の伸びが加速していることがわかります(下図)。
パウエル議長の発言から察するにFRBはコロナ前のような賃金上昇率に引き下げたいという狙いがありますが、その意志とは反して最近の伸びはかなり大きなものになっています。
この伸びを抑える兆候が見られるかも、今晩のチェック項目だと思います。
今晩の結果はどうせ当たらないので予想はしませんが、上でお話したように雇用はまだ強い恐れが多く、その場合はまだ賃金は高い伸びが続いているのではないかと不安になります。
私は今年景気後退が起こると思っているので雇用は強かったとしてもいずれ弱くなると見ていますが、雇用が強く金融引き締めが続いて資産の価格下落が続くような展開はできれば避けて通りたい道です。