本当はこの記事では、昨日発表のあった11月のアメリカ個人消費について詳しく触れようと思っていました。
しかし、消費のデータを見ながら頭にふわっと浮かんだ別の疑問のほうが、気になってきたのでそちらをメインに書こうと思います。
気になっているのは「2023年のアメリカ経済の景気後退の深さとその時の株価の下落」です。
今のところ2023年のアメリカの景気後退は浅いと考えている人は多い印象です。しかし、そうであったとしても株価へのダメージは大きい恐れがあります。
この記事のポイント
- 既に悪化している住宅市場やS&P500の一株利益予想に比べると、個人消費やそれを支える所得の伸びはまだ堅調。
- FRBはインフレの長期化を招くことになる賃金上昇を下げようとしているが、それらは企業利益の低下が始まるよりもずっと時間がかかる。
- FRBが無事に賃金上昇の引き下げに成功した頃には、企業利益は大きく損なわれて、株価に大きな下落が起こっていても不思議ではない。
個人消費や賃金上昇の低下までのタイムラグ
11月の予想よりは弱かったと言われています。しかし、それでも前月の10月が大きく伸びていた反動もありますし、何よりも他の指標よりはまだ持ちこたえている印象があります。
次のグラフは毎月の個人消費の金額をグラフにしたものですが、まだ右肩上がりに伸びている(成長している)ことがわかります。
これは他の数字と比較しても、かなり順調だと思います。たとえば、2022年にもっとも傷んだのは住宅市場ですが、住宅価格は2022年半ばから既にかなり下がっています。
また、次のグラフはS&P500の直近4四半期分の一株利益の推移ですが、こちらも既に2022年に低下に転じています。
こうして住宅や企業の一株利益などと比べてみると、まだまだ個人消費は強い印象があります。
個人消費がまだ持ちこたえている要因には、きっと賃金の伸びがあるのでしょう。コロナ前よりも高い伸びが続いているので、消費はまだ底堅い傾向が続いています。
2022年からFRBは急激な金利引き上げをしましたが、真っ先に影響を受けた住宅市場や企業利益などと違って、賃金上昇や賃金上昇に支えられた個人消費は金利による悪影響を受けるまでにタイムラグが発生していることがわかりました。
いや、そもそも金利引き上げが賃金や消費に影響が出るまでには「金利上昇」、「企業利益悪化」、「雇用縮小・賃金上昇鈍化」、「消費鈍化」とステップが必要なので、タイミラグが発生するのは当然かも知れません。
企業利益の低迷について
さて、問題はFRBがインフレの長期化を招きかねない賃金上昇の高止まりを阻止しようとしている点です。パウエル議長は12月上旬に「今の賃金の伸びは1.5%〜2%ほど高い」と言っていて、コロナ前のような賃金上昇率がふさわしいという認識を持っています。
しかし、今話をしたように金融引き締めをしていても賃金上昇を引き下げるためにはかなりのタイムラグが発生します。なので、2023年に本当にFRBが望むような賃金上昇率が低下したことを確認できた頃には、企業利益はオーバキルされてしまう(ボロボロに悪化してしまう)のではないかと思います。
しかも、今のアメリカの景気は構造的な人手不足でただでさえ賃金の伸びはやや高めに度止まりやすい状況です(下記事参照)。
>>アメリカのインフレの種はリーマンショック後から始まっている
今は雇用が強い状況なので恐らく個人消費もまだしばらく持ちこたえます。ひょっとすると人手不足で失業率が下がりにくい分、2023年の景気後退はGDPのマイナス幅が小さいかも知れません。
それでも、既に悪化している企業利益は、賃金鈍化が見られる頃にはさらに大きく悪化しているものと見られます。これは米国株にとっては大きな下落要因になりえます。
そして、いくつかのデータでは「2023年の企業利益の悪化がかなり大きくなりえる」ことを示しています。
フィラデルフィア連銀が発表している「製造業の6ヶ月先の新規受注見通し(Manufacturing Business Outlook Survey:Future New Order)」は、S&P500の一株利益と連動して動く傾向があります。
そして、上の図で最新の「製造業の6ヶ月先の新規受注見通し」の落ち込み方を見ていると(薄い水色線の右側を見ると)、世界金融危機よりもITバブル崩壊時よりも大きな落ち込みを見せていることがわかります。
これにS&P500の企業利益が従うなら、過去2回の景気後退に匹敵する規模の利益の低迷が起こる恐れがあります。