26日(金)にFRBのパウエル議長がジャクソンホールで講演を行いました。
講演の内容はもともと予想していた通りのもので、長期国債の価格はほとんどびくともしなかったのですが、株価は大きく下落しました。
この記事のポイント
- パウエル議長はインフレ2%の目標のために、金融引き締めを継続する姿勢を改めて示した。
- 印象的だったのは、家計や企業に痛みが伴ってもインフレを抑える姿勢を見せたこと。
- 株式市場はまだ楽観的な業績見通しを持っているので、パウエル議長の講演後に株価が下落した。
パウエル議長の講演で気になった点
はじめにFRBのパウエル議長が発言した内容をおさらいしておきます。
既にニュースなどで取り上げられていて、内容を把握している人も多いと思うので、私が気になった点だけここで取り上げます。
(なお、講演の内容はこちらのページで確認できます。)
パウエル議長の発言
- インフレ目標2%の達成に焦点を置いている。
- 物価の安定には時間がかかる。需要と供給のバランスを取るために力強い金融政策を取る必要がある。ある期間は低い成長率が続く必要がありそうだ。
- (金融引き締めによる需要の低下は)家計や企業に痛みを伴うが、今失敗すればさらに大きな代償を払う。
- 高インフレ率が乱高下した1970年代と1980年代、その後の低く安定したインフレ時代に中央銀行が得た知見をもとに金融政策を熟考して決めている。
早すぎる利上げ停止や利下げ開始予想に釘をさした
講演の最初に、パウエル議長はインフレ率2%を目指していると話しています。
一部の楽観的な投資家は「2.0%のインフレ率にはまだ遠いけれど、インフレ率がピークをつけたなら、そろそろ金融引き締めも終わりが見えてきたはず」と解釈もしていましたが、これに対してパウエル議長が釘を打ってきた印象があります。
また、「景気が悪くなってきたから利上げの停止が近づいている」「2023年にも利下げがあるのではないか」という投資家の先読みが(主に株式市場で)ありました。しかし、パウエル議長は物価の安定には時間がかかり、強力な金融政策がまだ必要と話して投資家の楽観を消しに来ています。
6月中旬から楽観的に動いていた株式市場には耳の痛い言葉だったはずです。
経済成長率の減速
次に気になった点は、パウエル議長が経済成長率を抑えてでも、物価の上昇を止めると言っていることです。
物価は需要と供給のバランスで決まりますが、中央銀行のFRBにできることは金融政策で需要を上げ下げすることだけです。
今は利上げをして需要を下げる(景気鈍化で物価の低下を狙う)時期であり、パウエル議長はいくらか家計と企業が痛みを感じることはインフレを抑えるために仕方のないコスト(不運なコスト)だと言って割り切っています。
この話を受けて、私が心配になったのは、米国株市場が描いている楽観的な業績見通しです。
次のグラフはアナリストたちによるS&P500の今後1年間の一株利益予想の変化ですが、最高値からまだ3%程度しか下方修正が入っていません。
パウエル議長が言う「家計と企業の痛み」が、企業利益にして3%で済むとは私は考えていません。恐らくこれから長い時間をかけて、アナリストや投資家はさらなる下方修正と株価下落を強いられるのだろうと思います。
米国株には弱気なまま
今回のパウエル議長の講演で感じたのは「インフレの2%達成が見えるまでには、企業も家計も痛みを伴うかも知れないが、金融引き締めはまだまだ続く」ということです。
FRBがこのように考えている背景には、1970年代前半にインフレを抑え込むのに失敗して、10年間インフレと戦う羽目になった反省があります。
>>バーキン総裁、利上げ「継続していくしかない」 -70年代の反省で(ブルームバーグ)
上のブルームバーグの記事では、[1970年代の教訓を踏まえると、景気の弱さが見られたとしてもすぐには利上げは止めない]というバーキン総裁の考えが書かれていますが、恐らくこれはパウエル議長をはじめFRBのメンバー複数人で共有している考えなのだろうと思います。
パウエル議長の講演を終えて、私の米国株への考えは特に何も変わらなかったのですが、相変わらず弱気なままです。
今の時点で既に安い株もありそうですが、ここで買いに行くのはFRBの政策に背くことになるので、私はまだ買うタイミングは来ていないと思っています。