日本時間の今朝、アメリカでは金融政策を決める会議FOMCが行われました。
政策金利の引き上げは0.75%は多くの投資家が予想していた通りで、何も目新しいことはなかったと思います。
ただ、株式市場はFOMC前後で大きく上昇しました。個人的にはこの上昇は少し違和感を感じるので、そのことについて書こうと思います。
この記事のポイント
- 前回のFOMCに引き続き、今回も0.75%の利上げが行われた。ただし、今後の金利先物市場の利上げ見通しは従来よりも低下して景気悪化に備えている。
- FRBが信頼している不況の前兆のサイン(10年と3ヶ月国債の逆イールド現象)は遅くとも9月にも点灯する。
- FOMC後に株式市場は上昇しているが、多くの市場や専門家が景気の悪化に向き合っているなか、株式市場だけ楽観視が続いている。
0.75%の政策金利引き上げが決定
今回のFOMCでは0.75%分の利上げが決まり、アメリカの政策金利は2.25%〜2.50%になりました。
- FOMC前:1.50%〜1.75%
- FOMC後:2.25%〜2.50%
この結果は、多くの投資家が予想していたので、何もサプライズはありませんでした。
それでもFOMCを通過した安心感からなのか、それともパウエル議長が「アメリカは景気後退に陥っているとは考えていない」と言って安心したからなのか、米国株は大きく上昇して終わりました。
私はこの株価の上昇が、あまりシックリ来ていません。
たしかにパウエル議長は雇用がまだ強い等の理由から、『今のアメリカ』は景気後退に陥っているとは言えないという考えを話しています。その一方で、『これからのアメリカ』については「ソフトランディングへの道(注:大きな経済的ダメージを回避できる道)は明らかに狭まり、さらに縮小する可能性がある」と懸念しています。
つまり、パウエル議長は「今」と「これから」で大きく異なったアメリカの姿を考えていることになります。
- 今:雇用はまだ強い。アメリカは景気後退ではない。
- これから:ソフトランディングできるかわからない。ただ、その可能性は明らかに狭まっているし、さらに縮小する恐れがある。
ふつう、投資家は今のことよりも、将来のことを重視して投資をします。それなら、「これから」のアメリカの景気を心配して株は売られても良いはずだったのです。
実際、金利先物市場は既に「これから」のアメリカを考えると政策金利を次々と上げられるほど景気は良くないと見ていて、政策金利の引き上げ予想を低下させています。
上の図を見る限り、2023年には景気が悪くなって利下げがあるとすら見ているようです。
株式市場だけが、なぜ景気後退に楽観視しているのは私はよくわかっていません。
「株価に悪影響がでる利上げが想定よりも小さく終わりそうだから」や「2023年には利下げが待っているから」という理由も一見もっともらしく聞こえますが、それは景気後退が株価に与える影響を小さく見積もっている気がします。
もしもこれから景気後退になるなら、利下げをしても株価の下落が止まらないというのは、次の記事で書いたとおりです。
>>これから景気後退になるなら、FRBが金融緩和に転じても買いのサインにならない
FRBが気にする不況のシグナルはいよいよ9月点灯へ
また、今回の利上げでFRBが気にしている不況のシグナルが、次の利上げが待っている9月にも点灯することになりました。
FRBはその昔、アメリカの景気後退が始まる前には必ず「10年米国債の利回りから3ヶ月国債の利回りを引いた値がマイナスになる現状(逆イールド現象)」が起こることを発見しました。
そして、昨日の7月FOMCで政策金利が引き上げられた後の「10年米国債の利回りから3ヶ月国債の利回りを引いた値」を見てみると、マイナスにまであとわずかなところまで来ています。
次の9月FOMCで利上げが決まれば、この値はさらに低下するので、9月にこのタイプの逆イールド現象が発生することはほぼ確実だと思われます。
FRBはアメリカの「これから」で景気が悪化する可能性を排除せず、金利先物や債券市場では景気後退を織り込んでいるのに、株式市場だけバラ色なのはやはり少し変な気がします。