昨日の記事の最後に、2021年のアメリカは物価が賃金以上の伸びる動きが続いており、この傾向が続くと消費が冷えてしまうという話をしました。
でも、この話は少し片手落ちです。
賃金以上に物価が伸びていてもアメリカの人々に十分な貯蓄があれば、貯金を崩しながらインフレが収まるまで耐えられるはずだからです(コロナが収束すれば、インフレは低下するという一部意見があります)。
なので、この記事ではアメリカの人々にどれだけの貯蓄があるのかを見ていきたいと思います。
既にタイトルにも書いてありますが、アメリカの貯蓄は既にそれほど多くないというのが結論です。
この記事のポイント
- 既にアメリカの貯蓄はほとんどコロナ前の水準に近づいている。
- 昨年2020年は不況で人々は消費を控えて貯蓄を増やした上に、現金給付があったため、2020年には大きな余剰貯蓄があった。
- 大きな余剰貯蓄のおかげで、2021年は大きな景気回復を実現できたが、その原動力となった貯蓄の余力は既にほとんどない。
2020年に大きく伸びた貯蓄がもたらした景気回復
本題に入る前に1年ほど前の昔話からおさらいをします。
アメリカでは2020年3月に新型コロナウイルスが流行して、景気後退(不況)に突入しました。
一般的には景気が悪くなると人々は消費を控えて貯蓄を増やす傾向がありますが、2020年4月には政府からの現金給付もあったので、貯蓄額はさらに大幅に増えました。
以下の図は2020年のコロナ不況前後のアメリカの個人貯蓄額の変化ですが、コロナの景気後退後に大きく貯蓄が伸びていることがわかります。
出典:FRED
新型コロナが流行している間にアメリカの人々の懐は温かくなったので、コロナが収束して外出できるようになれば、たまっている大きなお金が動いて景気が一気に回復すると考えられていました。
そして2021年にワクチン接種が進んで人々が外出をはじめると、実際にアメリカでは力強い景気回復が起こりました。
貯蓄は既にコロナ前の水準へ
2020年4月から2021年にかけてアメリカでは3回の現金給付がありましたが、現時点でアメリカの貯蓄はどれほど残っているのでしょうか。
現時点で確認できるデータは2021年9月の貯蓄額までですが、2021年9月の貯蓄額は既にコロナ前の水準に戻っているようです。
出典:FRED
早い話が、3回の現金給付で増えた余剰の貯蓄は既に全て使ってしまったようです。
2021年10月時点では年末商戦の時期を早めて好調な滑り出しをしているようで、今はまだアメリカの景気も強いですが、余剰の貯蓄が少なくなれば次第に消費の勢いも衰える気がしています。
消費の鈍化とインフレへの影響
アメリカの景気回復の大きな原動力になっていた余剰の貯蓄がほとんどなくなったという話をここまでしてきました。
賃金も物価ほど伸びていない上に、コロナの流行時にたくわえた貯蓄も元通りになってしまったなら、今は力強いアメリカの消費もそれほど長く続かない気がしています。
消費の伸び(≒GDPの伸び)が鈍くなる時期は、2022年前半にも訪れるかもしれません。
その場合、インフレ率はどうなるのでしょうか。
2021年のインフレは以下の2つの要因で起こっていますが、その1つの「活発な消費欲」消えることになります。
- 消費者側(需要):活発な消費欲
- 企業側(供給):コロナ対策、人手不足、物流の遅延で十分な製造やサービス提供ができない
なので、アメリカの消費の伸びが緩やかになると、物価の伸びも少しは鈍化するかも知れません。
一方で、新型コロナウイルスの流行が世界的に収まらない限り、企業側(供給側)のインフレの要因は収まりません。
最近イギリスやドイツなどヨーロッパの国では、ワクチン接種がかなり進んでいるにも関わらず再び感染者数が増加しているところを見ても、まだまだコロナの感染と比較的高いインフレ率は続く可能性があります。
消費が弱くなるのに物価はそこそこ高いままではアメリカの景気に悪影響なのでは、と2022年を心配しています。