10月のアメリカの製造業の景気を示す数字が発表されたので、この記事で振り返りたいと思います。
景気の力強さを示す数字は高く、一見するとアメリカの製造業は好調をキープしているように見えるのですが、少し気になる点もあります。
インフレ圧力は前月よりも強まっているように見えることと、新規受注などが減っていて需要が鈍化しているようにみえることです。
この記事のポイント
- 10月の製造業の景気指数は一見すると好調をキープしているように見える。
- ただ、詳細にデータを見ると、供給の問題は深刻化して仕入価格も上昇し、インフレ圧力が上昇しているのが気になった。
- また、最近は需要の伸びが鈍化しているのも気になる。新規受注も受注残も伸びが緩やかになっている。
全体の景況感はまずまずの強さが続く
ISMから毎月発表されるものの中に、米国の製造業の景気の強さを表す「ISM製造業景気指数」というものがあります。
毎月の経済のデータの中でもかなり早くに発表されるので、「先月(10月)のアメリカの景気はどうだったのかな」と気にしている投資家も見ることが多い、注目度の高い数字です。
この数字を見る限り、10月は前月よりも調子をわずかに落としたものの、そこそこ好調をキープできたように見えます。
- 予想:60.5
- 結果:60.8(前回 61.1)
50を超えてれば景気は拡大していることを意味するのですが、今月も50を大きく超えて60.8でした。
以下は最近のISM製造業指数をグラフ化したものです。
このグラフを見ると60前後が当たり前のように毎月続いていますが、少し記録を遡るとコロナ前の2019年は50を下回る月も多かったです。
そう考えると、ISM製造業指数を見るかぎりは2021年はかなり景気が良いような印象を受けます。
需要の伸びの鈍化と仕入価格の上昇が見られた10月
ここまで10月のアメリカの製造業は好調に見えるという話をしてきましたが、少し心配な面もあるので、詳細なデータを確認していきます。
個人的に心配しているのは、「(1)インフレ圧力が強まっていること」、「(2)需要が弱まっているように見ること」です。
インフレ圧力は再び強まっている
まず、2021年に何度も聞かれている供給の問題(商品配達などの輸送の遅れ)についてですが、10月はさらに状況が悪化しているようです。
この影響を受けているのか、製造業の仕入価格は再び上昇が始まっています。
これらの見る限り、インフレ圧力は強まっているのではないかと思っています。
一方で需要は弱まっている
需要が強まっているおかげでインフレ圧力が上昇しているなら、それほど心配はしません。ただ、今月のデータを見て気になるのは、需要の伸びは弱まっているように見えることです。
以下は10月の新規受注の強さをグラフ化したものですが、10月は鋭く数字が低下しました。
また、注文だけ受け付けてこれから製品を提供する予定の「受注残」を見ても、既にピークを超えて低下しています。
これらのグラフを見ると、アメリカの製造業の需要は10月に伸びが弱まったのだろうと感じます。
さいごに
この記事では10月のアメリカの景気について触れていきました。
結果だけでみると、アメリカの製造業はまだまだ景気拡大が続いているように見えます。しかし、詳細なデータまで確認するとインフレは強まっている一方で、需要の伸びは鈍化しているようです。
ここまで書いて気づいたのですが、これは先月の記事に書いたこととほとんど同じでした。
9月のISM製造業指数からは以下が読み取れると書いたのですが、これだけ見ると10月の話をしているのかなと間違うほどです。
9月ISM製造業から読み取れること(再掲)
- 需要の伸びの鈍化:受注関連のデータの伸びが鈍化。この傾向が続けば景気拡大ペースは鈍化。
- インフレ圧力の増大:供給の混乱(必要な物資の調達の遅れ)はまだ改善していない。高いインフレ率はまだしばらく続きそう。
これを見る限り、需要の伸びの鈍化とインフレ圧力の増大は「単月の結果(一時的な現象)」ではない可能性があります。