アメリカの次の手は、自動車への追加関税かもしれません。
トランプ政権が全ての自動車輸入品に関税を課すことを真剣に検討していると、ウィルバー・ロス商務長官が6月17日に明かしています。これは、中国だけでなくヨーロッパや日本も含む全ての輸入自動車を対象に考えているようです。
この件は、今回の発言が発端ではありません。従来から、トランプ大統領は自動車の輸入が増加している事態を懸念していて、「国家安全上保証上の脅威」と表現して嫌悪感をあらわにしています。
ただ、2019年5月17日に輸入車への関税措置を発動するかどうかの判断は、最大180日遅らせるとトランプ大統領が発表したことで、一旦は沈静化していた議題でした。
沈静化していたにもかかわらず、ウィルバー氏が再度「トランプ大統領が自動車関税を真剣に検討している」と発言した意図がどこにあるのか、少し考えさせられます。
自動車市場が低迷する中国、欧州
自動車への関税が課せられれれば、中国にとってもEU諸国にとっても大打撃になりえます。2019年6月時点では、中国もEUも自国の自動車市場が低迷して伸び悩んでおり、世界の主要な自動車市場で唯一健全な国がアメリカだからです。
特に、中国に関しては「伸び悩む」というよりも、「崩れかけている」と表現したほうが適切かもしれません。
中国汽車工業協会(CAAM)が6月12日に発表した5月の自動車販売台数191万台で、前年同月比は16.4%減少と過去最大の落ち込みを記録しました。2019年3月の5.2%減、4月の14.6%減に続き、状況が悪化しており、これで11カ月連続の前年割れになっています。
米国経済にも打撃
アメリカの輸入車への関税引き上げは、アメリカ自身の首を締めることにもなると欧州自動車工業会は警告しています。
まず、ヨーロッパの自動車メーカーは毎年莫大な投資をアメリカで行っています。2018年には欧州系の自動車メーカーが300万台以上の自動車を米国で生産しており、その数は米国生産車全体の27%にも登ります。
全ての国からの輸入車に追加関税を発動した場合、ダメージを受けた欧州企業が米国内で減産や従業員の解雇・減給という形でアメリカの景気を冷やすだけでなく、米国で生産した車を第三国に輸出する際に、多くの国からの報復関税を受ける恐れがあるとして、欧州自動車工業会は猛反発しています。
しかし、ここに来て再度自動車関税の話を広げてくるとは、トランプ政権もずいぶんと攻めている印象があります。
2019年5月には中国との貿易戦争が加熱する中、関税の火種をメキシコの移民問題にも広げて一時世の中は騒然としました。結局、メキシコとの移民問題は合意し、メキシコへの全輸入品への関税は発動させずに済んで世の中は一安心しましたが、メキシコ移民問題で味をしめたトランプ政権が、次に自動車輸入問題で同じ手を使い始めるようだと、世界の経済にマイナスに働きかねません。