ソフトバンクグループのビジョン・ファンドは、タクシー配車サービスUber、ビジネスチャットツールSlack、がん遺伝子検査のガーダントヘルスの株式を担保にして、40億ドル(4,000億円)を借り入れることを検討しているとフィナンシャル・タイムズが報じています。
私はあまりビジョンファンドという会社は好きではないので普段だったらこの会社の記事は書かないのですが、昨今の世界経済の雲行きが怪しくなっている中で、リスクを取って借金してさらなる投資をしようとしている姿勢は、ちょっと注目しています。
次に何に投資をするのかはもちろんですが、株を担保にした資金調達では最悪株を手放さなければいけないリスクもつきまとうため、市場の環境が悪化した時に備えて、どのようにリスクを回避するのかに興味があります。
ちなみに嫌いな理由は特にないです。なんとなく好きじゃない。
ただ、それでは説明にならないので、それっぽい不平や不満を並べると、個人投資家が買えない非上場だった時期のSlackやUberに出資して儲けている点に不公平を感じます。
SlackもUberも2014年から2015年に仕事で出会って、いいサービスだと思って株も調べたのですが、当時はまだ株式公開されていなくて個人投資家では株を買えず断念していました。一方、ソフトバンクは、これらの企業のサービスが大ヒットした後の2017年以降に企業の出資という形で、非上場時の企業に投資して株を取得していたはずです。
ヒットした後の企業に出資し、その後に株式公開をすれば、そりゃ儲かりますよね。ずるいですね。まあ、後から何を言っても遅いのですが。
株式を担保にした借り入れとリスク
話を戻しますと、今回ビジョンファンドはUberなどの3社の株を担保にゴールドマン・サックスから40億ドルを借りる話をしているようですが、ビジョンファンドにとっては株を担保とすることで、Uberなどの株を売却せずに通常よりもやや低い金利で資金を調達できるメリットがあります。
しかし、担保の株が下落して評価額が下がった場合には、ビジョンファンドはゴールドマン・サックスに対して現金で資金を追加する必要があり、支払えない場合は最悪担保の株をゴールドマン・サックスに譲渡しなければならないリスクを負います。
景気の回復期や拡大期で経済の見通しがいい時期ならまだしも、米国や中国をはじめとして世界の各国で景気減速の懸念が広がって株価が軟調になっている中で、ビジョンファンドがリスクをとって資金を調達している点はかなりチャレンジングだと思いました。
担保にした銘柄は魅力的なサービスで一杯
担保にしている株はどれも面白いサービスを提供する企業ばかりです。Uberは不祥事が相次いでいますが、いまだ全米で最も使われるタクシー配車アプリですし、ビジネスチャットのSlackは最近ロゴを変えてとてもダサくなりましたが、それでも使いやすさは抜群です。ガーダントヘルスのがん遺伝子検査は今度の展開も含めて気になるところです。
Slackに関して言えば、2019年6月20日に上場を控えていたと思いますが、世界情勢が安定してたら、今でも私は購入候補の1つする銘柄です。
実はSlackはプログラミングができる人にこそ真価が発揮されるサービスで、自分の作ったアプリや既存サービスを次々にSlack上で呼び出せる連携機能が充実しています。このため、Slackは仕事仲間と会話するだけのチャットツールにとどまらず、チャット画面からスケジュール調整をしたり、会議室予約をしたりと、Slackの1画面がマルチな活躍をしてくれる便利アプリとして機能できる優れものとして未だに人気を博しています。
リーマンショック級の不況も想定されている貸し手ゴールドマン・サックス
記事の前半にビジョンファンドがどのようにリスク管理をしているのかが気になると言いました。ビジョンファンドのリスクの管理の仕方の詳細はまだ分かりかねますが、現時点では担保にした株の時価総額と借入金額の比率から、お金を貸す側のゴールドマン・サックスのリスク管理はしっかりしているなと印象を受けます。
どういうことか説明します。
まず、今回担保にした銘柄に関して、ビジョンファンドの持ち分を計算するとざっと110億ドル(約1.2兆円)を保有していることがわかります。
時価総額 | ビジョンファンド持ち分 | ビジョンファンド保有額 | |
---|---|---|---|
Uber | $67.2B | 12.88% | $8.7B |
ガーダントヘルス | $7.0B | 30.74% | $2.2B |
Slack | $7.0B | 7.3% | $0.5B |
合計 | – | – | $11.3B |
つまり、ゴールドマン・サックスは現時点の時価総額の113億ドルを担保にして、40億ドルを貸していることがわかります。ゴールドマン・サックスとしては、昨今の軟調な市場の中で担保の株価が大きく下落することがリスクになりますが、もともと110億ドルの株をなので、6割価値が減少しても、担保の株を売れば貸した資金は回収できます。
サブプライム・リーマンショック時のダウ平均の下落率は54%だったことを考えると、貸す側のゴールドマン・サックスは次にリーマンショック級のリセッション(不況)が来ても、貸し倒れしないリスク管理ができていると言えます。