アドビの2020年6-8月期の決算発表がありました。
アドビは一般的にはPDFを見るための無料のソフトを提供している会社というイメージが強いですが、映像・動画・写真編集などのクリエイター向けのソフトで市場を支配しているリーダー的な企業です。
しかも、それらのソフトの90%はクラウド提供していて、毎月・毎年ユーザーから課金して売上が発生しているので、業績がとても安定していることで有名です。
この2020年6-8月期も成長を続けるクラウドソフトウェアの収益のおかげで、四半期業績としては過去最高を記録したようです。
しかし、昔からこの企業を知っていた人から見ると、今期の売上成長率はかなり鈍化したなという印象を受けると思います。今後のアナリスト予想を見ても、一株利益は二桁前半の成長にとどまると見られているので、この程度の成長率で今の高い株価が維持できるのかが少し不安材料です。
アドビは本当に良い企業だと思いますが、投資家の評価が高すぎる気がするので、今の株価は手を出さなくて良いと思っています。
この記事のポイント
- アドビは予想を超える決算だった。四半期の売上としては歴代最高を記録した。
- ただし、売上成長率は14%と近年のアドビとしては低成長だった。今後のアナリストの予想を見ても、アドビは高成長期を終えて、安定成長に向かうのかも知れない。
- そうなると、今の高い株価を支えるのは難しくなってくる。2020年9月時点の株価は今後12ヶ月の予想利益43倍(PER43倍)で、かなり割高。
2020年6-8月期決算
アドビの6-8月期の決算は収益・利益ともに予想を超える良い内容でした。
- 一株利益:2.57ドルで、予想を0.16ドル上回る。
- 調整後一株利益:1.97ドルで、予想を0.05ドル上回る。
- 収益:$32.3億ドルで、予想を0.7億ドル上回る(前年比+14.1%)
アドビは、なかなか強いですね。2020年はコロナの悪影響があったはずなのですが、それでもきちんと予想を上回る決算を出してくるあたりは流石です。
ただし、売上の前年比+14%成長は近年のアドビの中では、かなり低い数字です。以下のグラフで売上成長率の推移を確認してみても、かなり低調だったことがわかります。
売上成長が低迷すると、苦しくなるのは利益成長です。私がアドビ株を買っていた2016年は、前年比+50%超えの利益成長を連発していたのですが、今期は+21%成長とアドビとしてはやや控え目でした。
売上と利益の成長鈍化は投資家としては、やや気がかりです。
部門別売上
部門別の業績を見たときには、アドビが次の成長分野を求めて活発に投資しているマーケティング領域(デジタル・エクスペリエンス事業)が伸びていないのも、気がかりです。
Adobeの事業
- デジタル・メディア事業:デザイナー向けデザインソフトやドキュメントソフト(PDF等)を販売する主力事業。
- デジタル・エクスペリエンス事業:近年買収を進めて強化してきたWebマーケティング支援ツールを販売する事業。
2020年は世界的に、広告やマーケティング費用を削減している影響もあってか、アドビのデジタル・エクスペリエンス事業はかなり低調です。
結果的に安定成長している主力のデジタル・メディア事業に頼っているのが今の現状です。
売上(単位:10億ドル) | 3Q20 | 構成比 | 前年比 |
---|---|---|---|
デジタル・メディア事業 | $2.34B | 72% | +19% |
デジタル・エクスペリエンス事業 | $0.84B | 26% | +2% |
その他 | $0.05B | 2% | -2% |
合計 | $3.23B | 100% | +14% |
成長率を事業別に比べると、デジタル・エクスペリエンス事業(赤線)の成長率が、コロナの悪影響もあってか2020年に入って急速に鈍化しているのが見て取れます。
アドビを取り巻く割高感
ここまでの内容をまとめると、直近のアドビの20年5-8月期決算は予想超えで良い決算だったものの、成長率が年々減速していて、なおかつ成長分野のはずのデジタル・エクスペリエンス事業の急減速が鮮明になっていることがわかります。
またアナリスト予想を見てみると、今後1年間の一株利益成長率は約+12%とさらに鈍化することが予想されています。どんな企業でも高い成長率を続けることが困難なように、アドビにも安定成長期が訪れているようにも見えます。
安定成長期に移ること自体に問題はありません。ただ、今の高い株価を維持できるのかが問題です。
2020年9月時点のアドビの株価は、今後12ヶ月分の一株利益予想の43倍(PER43)もの高い株価がついて、投資家はまだアドビに高い成長率を期待しているかのような株価がついています。
なので、株価が落ちてくれるか、もしくはアドビが無事に成長が加速してくれるまでは、この株の購入は回避したほうが良いと考えています。