米中貿易協議の第一弾が合意されました。
「2ヶ月前に第一弾の合意をしたはずなのに、なぜもう1度、第一弾合意を発表したの?」と思う人もいるかも知れません。
私も全くように感じています。でも、合意内容を少しアップデートするだけで「合意しました」って2回発表できて、結果的に市場は2度喜ぶことができたので良かったんじゃないでしょうか。
市場の正体は「投資家の論理と心理と欲の集まり」なので、たまには非論理的な動きもします。
さて、この記事では、再度合意した内容がどのようなものだったか、アメリカと中国にはどんな狙いがあるのかを見ていきます。
この記事のポイント
- 中国は500億ドル/年のアメリカの農産物を買うなど9項目で合意。
- アメリカは12月開始の関税を延期、9月実施分の関税は15%から7.5%に削減。対象商品は米個人消費に関連するものが中心。
- 中国「農産物買うから、関税をやめてほしい」、米「今までかけた関税の中に米個人消費に悪影響がある関税があるから、第1弾合意をきっかけに削減しよう」という狙いが見え隠れする。
- 中国企業への多額の補助金の廃止など、米中で主張が対立するものは第1弾合意に含まれていない。つまり、議論は進んでいない。
第1弾合意の内容
今回合意した内容は既に上の「この記事のポイント」で書いてしまったのですが、もう少しだけ細かく内容を見ていきます。
第一弾の合意内容
- 中国は年間500億ドルの米農産物購入・知的財産権保護・技術移転・金融サービスの開放・為替・紛争解決など9項目を実施。
- アメリカは中国への12/15開始分の関税は延期する。9/1の1250億ドル分の関税は15%から7.5%に変更する。
中国の約束事で目立ったものは農産物の購入だけです。それに対して、アメリカは随分と関税の引下げの譲歩をしたなと思いました。
でも、アメリカが譲歩した関税の対象商品を見ると納得がいくものでした。
撤廃した関税はアメリカ消費者に響く関税
削減した関税の内訳を見ると、アメリカの一般の人が購入する商品が多く含まれていることに気づきます。
アメリカが撤廃した12/15分の関税には中国製スマホやノートPCなどをアメリカの消費者が購入するものが多く含まれてます。また、税率を半減させた9月の関税対象商品もワイヤレスイヤホンなど、アメリカ消費者向けのものが多かったです。
これらの関税が発動されていれば、アメリカのGDP7割を占める個人消費に悪影響がありました。つまり、アメリカは第1弾合意を利用してアメリカ経済に悪影響を与えそうな、やりすぎてしまった関税を削減してきたようです。
第1弾合意後の米中の関税
単位:ドル | 米国 | 中国 |
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第1弾 | 340億(25%) | 340億(25%) |
第2弾 | 160億(25%) | 160億(25%) |
第3弾 | 2000億(25%) | 600億(10-25%) |
第4弾 | 9/1開始分:1200億(15%→7.5%へ) 12/15開始分:1600億(15%→延期へ) |
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見え隠れする米中の狙い
第1弾合意には、アメリカも中国も狙いが見え隠れしています。
中国の狙い
中国は国内の景気が減速しているので、アメリカ関税を撤廃してほしい。だから、2020年の大統領選挙で大事な農家の支持をトランプ大統領が得られるように、農産物購入のプレゼントを送ったように見えます。
アメリカの狙い
トランプ大統領は貿易協議で成果をアピールしたい。農家の支持も欲しい。大統領戦までにアメリカ景気を悪化させたくないから、景気を左右する個人消費に悪影響が出る一部の関税の削減を約束した。と言ったところです。
本来の目的だった中国市場開放や中国企業の多額の補助金撤廃の話はやはり進んでいないのかなと感じる合意内容でした。
今後の米中協議は、あまり本質的ではない部分的な合意は繰り返すかも知れませんが、補助金や市場開放の議論は長期化しそうです。
たぶん、米中交渉をしているアメリカも長期化することはわかっているのだと思います。だからこそ、中国が「お互いに全ての関税を段階的に撤廃しよう」と言っても、アメリカは賛成しなかったようです。
まだまだ撤廃できる関税の交渉カードを残しているところをみると、アメリカは長期化する交渉に備えているように見えます。